約 1,207,078 件
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/658.html
幸せの赤い翼――翼の種子のパッション(第5話 世界が反転する日) イースが傷だらけの身体を引きずって森に辿り着いた頃には、日はもう西へと傾きかけていた。 森の奥――かつて占い館があった場所で、足を止めて息を整える。 木々の間に手を翳すと、一瞬、蜃気楼のように空気が揺らぎ、まるで澄んだ湖が景色を映し出すように、古い洋館が姿を現した。 門を潜って、階段の前のロビーで足を止める。 仲間――と言っていいのだろうか? サウラーとウエスターが、イースを待ち受けていた。 「ふん、でかい口を叩いた癖に、何の成果も無しに逃げ帰るとは。所詮は人形だな」 「黙れ! それを呆れるほど幾たびも繰り返してきたお前に、言えたことか」 「何だとぉ!?」 「落ち着け、ウエスター。僕らに非難する資格は無いさ。だが、同じ轍を踏むだけなら、君が生まれた理由はどこにあるんだい?」 「そんなことは、ノーザさんにでも聞くんだな。私には報告義務がある――通せ!」 あからさまに敵意をむき出しにするウエスターと、いつものからかう口調ながら、どこかいぶかしむようなサウラー。そんな二人を押しのけて、イースはノーザの元へと急ぐ。 「お帰りなさい、イース。無事で何よりだわ」 「申し訳ありません、ノーザさん。お借りしたソレワターセを失い、任務も果たせず……」 「構わないわ。それに、ちゃんと成果はあったようだし」 「それは、どういう意味でしょうか?」 「フフフ……気にしないで、あなたは次に頑張ってくれたらいいの。手段は問わないわ。プリキュアを徹底的に追い詰めて、奴らの本気を引き出しなさい」 「ということは、インフィニティを奪取するのではないのですか?」 「そのことなら別の手を考えてあるわ。あなたは自分の役割を果たせばいいの」 「ですが……。奴の、今日の力をまた発揮されたら、対処する術がありません」 なおも言い募るイースに、ノーザは妖艶で、冷酷で、実に愉しそうな笑顔を見せた。 「心配要らないわ、イース。東せつなは、もう出て来ない。仮に現れたとしても、今度はただ見ているだけのはずよ」 「えっ……なぜですか? そもそも変身できなければ、奴はただの人間のはずです。それなのに、あの力は一体……」 「おしゃべりはお終いよ。これ以上、余計なことを考えるのはおよしなさい」 「はっ、申し訳ありません。次は必ず、ご期待に応えて見せましょう」 ノーザはその言葉に頷き、満足そうな笑みを浮かべると、空間の扉を開いて自室へと戻っていった。 イースはノーザの姿が完全に見えなくなるまで、跪いて見送った。やがて誰も居なくなった通路から立ち上がると、地下の一室を目指して歩き出す。 炎のように燃え盛る闘志と、氷のように揺るがぬ決意を――その美しき相貌に宿して。 『幸せの赤い翼――翼の種子のパッション(世界が反転する日)――』 「ちょっと窮屈だけど、ごめんね」 ラブは自分のスポーツタオルをベンチに敷いて、バックを枕代わりにして、せつなの身体をそっと横たえた。 戦いの後、ピーチの腕の中でせつなは意識を失ってしまった。 祈里が診たところ、呼吸も脈拍も正常のようで、苦しそうな様子はない。 「本当は、すぐにお医者様に診せた方がいいのだけど……」 「うん。でも、せつなが嫌がると思うから」 先日、意識不明で自宅に運び込んだばかりなのだ。何日もしない内に同じことがあったら、あゆみと圭太郎がどれだけ心配するかわからない。 そこで、少しだけ公園で休ませて、様子を見ることにしたのだった。 「ラブ、タオルを濡らしてきたわよ」 「ありがとう、美希たん」 ラブはせつなを起こさないように気を付けながら、そっと額や首元の汗を拭いていく。 この前とは違い、表情も穏やかだ。 「よかった。本当に疲れて眠っているだけみたい」 「うん。睡眠ってね、微かに意識はある状態なんだって。だから、ラブちゃんの動きにも反応してるでしょ?」 「そっか、寝かせる時も動いたよね」 「よほど疲れてるのね。ここまでされて目覚めないなんて」 「せつな、どうしちゃったのかな?」 ポツリとラブがつぶやく。それを聞いて、美希と祈里も顔を見合わせて小さく頷き、互いに表情を引き締めた。 二人とも、その話題を切り出すタイミングをうかがっていた所だったのだ。 「変身もしないでソレワターセを倒しちゃうなんて、確かに普通じゃないわね」 「前に美希ちゃんが言ってた、“準備”っていうのと関係あるのかな?」 「ええ。今回のことと、この前せつなが攫われたことは、無関係じゃないはずよ」 「つまり、ラビリンスにつかまった時に何かされたってことだよね?」 「やっぱりそうなのね。せつなちゃん、イースに変身できなくなってたみたいだし……」 「イースだけじゃないわ。パッションにも変身しようとして、失敗してたでしょ?」 「それは、リンクルンが偽物だったんじゃ?」 「偽物のリンクルンをわざわざ隠したり、ましてや、取り返したりすると思う?」 「そうね、せつなちゃんも驚いてたみたいだった。きっと本物なのよ」 「そっか……」 美希は、何かを感じているようだった。もともと感の鋭い子だし、ラブとは別の意味で、とことんまでせつなと――イースと渡り合ったことだってある。 ダンスのタイミングが合わなくなったこと。イースに変身できなくなったこと。パッションにも変身できなくなったこと。 人間離れした力を発揮して、ソレワターセを打ち破ったこと。 その全てが繋がっている気がした。そして、それはせつなが居なくなった、あの日から始まっているのだ。 「変身できないことは置いとくとして、さっきの力のことだけど……」 「せつなちゃん、強かったね。怖いくらいだった。それに――」 「それに――何なの? 言って、ブッキー」 「うん。なんだか危険な力なんじゃないかって」 「そうね。守るための力じゃなくて、壊すための力。そんな気がしたわ」 言いにくそうに続ける祈里に、美希も厳しい顔で同意する。ラブは、眠っているせつなの髪をそっと撫でながら、掠れた声で言った。 「せつな、悲しそうだった。あんなに強いのに、なんだか泣いてるみたいに見えたよ」 「変身できない今となっては、頼もしい力でもあるのだけど……」 「だめよっ! あの力は、もう使っちゃいけないと思う」 珍しく、強い口調で祈里が美希に反論する。 「わたしね、変身の意味がわかった気がしたの」 「変身の、意味?」 「うん。プリキュアに変身するのは、強くなるためだけじゃない。自分じゃない何かに変わることで、身体だけじゃなくて、心まで守ってくれるのよ」 「それで……それでせつなの戦いは、あんなに痛々しかったのかな」 「じゃあどうするの? 今日だって、アタシたちだけじゃ勝てなかったじゃない」 ため息交じりでそう呟く美希を、ラブは強い眼差しで見つめる。 「勝てばいいんだよね? あたしたちだけで」 「ラブ!」 「ラブちゃん!」 叫ぶように呼びかける二人に、うん、と一つ頷いて、ラブの視線は再び、せつなの方を向いた。 「あたしね、約束したの。せつなはあたしが守るからって。約束したのに――守れなかった。 また、守れないところだった……。ごめんなさい」 せつなに向かって、ラブは囁くような声で話しかける。 彼女の痛みを分かち合おうとするように、優しく黒髪を撫でながら。 嬉しいことや楽しいことだけじゃなくて、辛いことや悲しいことも、半分こするって誓ったから。 やがて顔を上げたラブは、せつなの手をしっかりと握った。もう一度、美希と祈里の目を交互に見つめ、揺るがぬ意志を湛えた表情で、力強く宣言する。 「今度こそ、約束するよ。あたし強くなるから。もう――絶対に負けないから! せつなも、シフォンも、みんな守ってみせるから」 その手の上に、美希が手を重ねる。続いて、祈里も。 「美希たん! ブッキー!」 「一人で頑張るなんて言わせないわよ? アタシたちは仲間でしょ」 「そうよ、ラブちゃん。わたしたちは、四人でクローバーだもんね」 「二人とも……ありがとう!」 せつなをこれ以上戦わせない。せつなの分まで強くなる。それが、三人の出した結論だった。 それは――これまで防戦一方だった、プリキュアの戦い方、在り方すら変える、大いなる決断でもあった。 やがて目覚めたせつなと一緒に、ラブは家に帰った。本当に疲れていただけなのか、せつなの身体に変調は無かった。それには安堵したものの、問題はその先にあった。 美希と祈里は、なにも口にしないで別れた。せつなのことはラブに任せると決めたらしい。 だが家に帰ってからも、その日の二人は、いつもとはまるで違っていた。 ラブは何かを言いかけては、すぐに口ごもってしまう。せつなの方も、自分からは何も語ろうとしない。 それが不自然であることは、互いに十分わかっている。だから、自然と口数も少なくなってしまう。 ダンスの話をしても、学校の宿題の話をしても、テレビや雑誌の話題を振っても、どれも続かなくて、まるで盛り上がらなかった。 いつもなら、あゆみや圭太郎も交えて、楽しいおしゃべりが続くのに。 二人の様子がおかしいのを察して、あゆみが事情を尋ねるものの、それがかえって気まずい空気を広げてしまう。 夕ご飯を済ませると、せつなも逃げるように自分の部屋に閉じこもってしまった。 せつなはベッドの上で丸くなって、両手で耳を押さえてうずくまる。 “欲しいなら――奪え” あの闇の底から響くような声が、また自分を変えてしまいそうな気がしたから。 (力が――欲しい) そう望んだのは、確かに自分自身だ。だけど、あの力は……。 自分が望んだ、「みんなの幸せを守る」ための力とは、ほど遠いものに思えた。 コンコンと、やや力強くドアがノックされる。 軽く身だしなみを整えてから、せつながドアを開けると――そこには意を決した表情のラブが立っていた。 黙って部屋に招き入れると、ラブも何も言わずに部屋に入り、後ろ手にガチャリとドアを閉めた。 「せつな、ソレワターセを倒した時のことは覚えてる?」 「ええ。ぼんやりとだけど」 「あれは、せつながもともと持ってる力なの?」 「そんなわけないでしょ。力が欲しいと思ったら、勝手に身体が動いていたの」 「じゃあ、変身できなかった理由に心当たりはある?」 「……わからないわ。この前、ノーザに何かされたのかもしれない」 ラブの質問は、問い正すような口調ではなかった。ただの確認なのだろう。 事実、せつなの答えは、いずれもラブの予想の範囲内だった。 全ては、たった一言を伝えたいがため。それが――せつなを傷付けることになろうとも。 「せつな、落ち着いて聞いて。あたし、美希とブッキーと話して決めたの」 「……なに?」 不安そうなせつなの目を、こわばった顔で見つめたまま、ラブは深く息を吸い込み、一息で言った。 「せつなには、ラビリンスとの戦いから外れてもらう。少なくとも、また変身できるようになるまでは」 「なに言ってるの? ラブ。変身しなくても戦えるわ! 見てたでしょ?」 「もう決めたの! せつなはしばらく家から出ないで、タルトとシフォンを見ていて。ラビリンスは――ラビリンスは、あたしたちが倒すから!」 せつなの目が大きく見開かれ、ラブをまじまじと見つめる。まるで、目の前の相手が誰であるかもわからないような顔で。 少なくともせつなの知っているラブは、「ラビリンスを倒す」なんて、決して口にするような子じゃなかったから。 「待って、ラブ! 迷惑をかけてることは謝るわ。だけど、三人だけで戦うなんて無茶よ!」 「自分でもよくわからない力で戦うなんて、そっちの方が無茶じゃないっ! タルトとシフォンだけならともかく、せつなまで守りながらじゃ戦えない。お願い、わかって!」 ラブの固い意志と剣幕に押されて、せつなは何も言い返すことが出来なかった。もとより、こうなった原因は自分にあるのだ。 「それと、ダンスレッスンはしばらく中断するから。もしかしたら大会にも出れなくなるけど、ごめん……」 『とにかくせつなは、家から出ないで』そう言い残して、ラブは固い表情のまま、足早に部屋を出て行った。 茫然として、返事も出来ないせつなを残して―― (どうして! どうして――こんなことに!) せつなは姿見に映る自分自身を、倒すべき敵のように睨み付ける。悪いのは全部自分だ。そんなこと、仲間になる前からわかっている。 ラブたちが心配してくれてることも、あの力が危険だってことも、ちゃんとわかっているし、こうして恐怖だって感じてる。 だからって、戦いから逃げてどうしろと言うのだろう。 自分の身に何かが起こっているのは確かで、それは隠れていれば解決するという問題ではない。 第一、いくら頑張ったところで三人では限界がある。グランドフィナーレだって、四人揃わなければ使えないのだ。 (何より――私が一番戦わなければならないのに!) 「スイッチ・オーバー!」 握った拳を胸の中央で合わせて――開く! しかし相変わらず、身体には何の変化も起こらない。 動作は完璧で、発音も集中力も問題ない。そもそも変身の失敗など、これまで一度だってしたことがなかった。 (それに、あの力は一体……) こうなった以上、もう、おぞましいなんて言ってられない。 目を閉じて、あの時の感覚を思い出す。自分の中に、もう一つの人格があるような感覚。いや、人格というより衝動のようなものだった。 まるで、動物の本能のような――そう思った時。 「教えてあげましょうか?」 部屋のどこからか、女性の声が聞こえてきて、せつなは驚いて目を開けた。 とっさに周囲を見渡すが、目に入るのは見慣れた部屋の家具だけ。今この部屋には、彼女一人のはずだった。 「ここよ。あなたの目の前にいるわ」 信じられないことに、声は鏡の中から聞こえてきた。鏡に映っている自分が、自分に向かってひらひらと手を振っている。 「お前は――何者なのっ!」 鏡の中のせつなが、口を横に大きく開いて笑みを浮かべる。その表情には、確かに覚えがあった。 「あなたは――ノーザっ!」 せつながそう呼ぶと、鏡の中の映像がグニャリと歪んで、ノーザの姿に変化する。 「ご名答。“お前”から“あなた”と言い替えたのは誉めてあげる。でも、私のことはノーザ“さま”とお呼びなさい」 「さま、ですって? ラビリンスの者がその呼び方を強要するのは――!」 「そう――しもべと相対する時だけよ。そろそろ、何か思い出したかしら?」 「失われた、私の記憶のことを言ってるの?」 せつながそう聞き返すと、ノーザは心底、可笑しいといった表情で声を立てて嗤った。 「これは傑作ねぇ。ええ、ある意味、あなたは最高傑作と言っていいわ。“スイッチ・オーバー”にも、“チェインジ・プリキュア・ビートアップ”にも、ずいぶんと笑わせてもらったけど」 「なにが――なにが可笑しいというの……。答えろ、ノーザっ! お前は私になにをした!」 「いいわ、教えてあげる。あなたは記憶喪失と思っているみたいだけど、初めからありもしないものを、思い出せるはずがないでしょう?」 「だから――それはどういう意味なの?」 もったいぶって、こちらの反応を愉しみながら話すノーザを前に、せつなはありったけの忍耐力を駆使して平静を装う。 「むかしむかし……でもないわねぇ。そう、三人の幹部の一人、イースの処分が決まった時のことよ。私は欠けた戦力の補強のために、クラインに二株のソレワターセを託したの。 その内の一体は、占い館でイースたちと戦い、後にパッションを加えたプリキュアに敗れたわ。 そして、もう一体のソレワターセは、イースが仕掛けた爆薬からゲージを守り、その後もゲージを守り続けたの。不幸のエネルギーの呪詛の声、嘆きと悲しみに耳を傾け、それを糧に成長しながらね。 この前、パッションのハピネスハリケーンからゲージを守ったのも、私を道連れにゲージの中に飛び込もうとしたイースを止めたのも、みんなこのソレワターセのお手柄よ。まさに最強のソレワターセってところかしら」 「それと……私の記憶が無いことや変身できないことと、何の関係があるというの?」 「フフフ、まだわからないの? それとも、わかっていて、認めたくないのかしら?」 せつなの顔色は、もはや蒼白を通り越して、まるで人形のようだった。紫色の唇を、血が滲むほどに噛み締める。死刑の宣告を受ける、罪人のように―― ノーザは、これまで見せたこともないほど冷酷で、それでいて愉しそうな笑みを浮かべながら――告げる。 「そのソレワターセこそが、あなたの本当の姿よ。すっかり、自分が“東せつな”だと思い込んでいるようだけど、残念だったわねぇ」 幸せの赤い翼――翼の種子のパッション(明かされた真実)へ
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/267.html
第10話『帰ってきたせっちゃん――ある日のせっちゃん。蛍を探せ!――』 耳に優しい静かな雨音。音楽のように聴きながら、机に向かい勉強に励む。 ふと、その曲が途切れた。ベランダに足を運ぶ。 開けた窓から流れ込む夜風、長く降り続いた雨に清められた空気。胸いっぱいに吸い込んだ。 空を見上げる。 漆黒の闇。雨雲に覆われた空は、いかなる光も運ぶことはない。 前にラブと一緒に見上げた夜空は綺麗だった。無数の星がきらめく光を放つ。無限の空に数多に描かれる光の芸術。そして、見つけた流れ星。一緒に手を合わせて願い事をした。 コンコン 「せーつなっ、入っていい?」 「どうぞ。ちょうど休憩していたところよ」 開きっぱなしの窓に、風に揺れて動くカーテン。ラブも興味を引かれてベランダに出た。 お風呂上りのラブ。もうパジャマに着替えている。 ピンクの可愛らしいパジャマ。部屋の光を反射してキラキラと金色に輝く髪。暗い夜空を映しても、なお輝きを失わない瞳。まぶしそうにせつなは見つめる。 「外を見てたんだね。それとも夜空? 最近は雲ばっかで真っ暗だよね」 「そうね、――でも、光はあるわ」 せつなは街を指差す。道を照らす街灯。街に灯る生活の光。家庭を照らす幸せの灯火。 それらを反射して光る、雨に濡れた家並み。 この世界はいつだって、どんな時だって美しい。せつなはそう語った。 「せつな。曇りの日でも見られる星空があるって知ってる?」 「ええっ、ありえないわ。雲の上にでも行かない限り無理よ」 悪戯っぽく笑って、その先をラブは教えない。週末おとうさんが連れて行ってくれるって。 楽しみだねって。そう言ったっきり口を閉ざす。 気になってせつなが問いかけても知らない顔。せつなはすっかり拗ねてしまった。 その夜のせつなの、ラブの宿題の指導は熾烈を極めた。 『帰ってきたせっちゃん――ある日のせっちゃん。蛍を探せ! ――』 約束の日、幸いにも雨は降らなかった。空は厚い雲で覆われている。 久しぶりに圭太郎が車を出す。普段馴染んだ四ツ葉町の河川、その遥か上流を目指すらしい。 上に、上に、高いところに! 川をさかのぼる二百キロの旅。 助手席にはあゆみが座る。せつなとラブは後部座席でくっつくようにしてはしゃいでいた。 結局、せつなは何を見に行くのかを最後まで教えてもらえなかった。 「綺麗な光を見に行くのよ。せっちゃん」 「星空? でも、こんなに曇っていては無理だと思うわ」 「曇っていても平気だよ。雨が降るとあたしたちが辛いけど」 「最後まで私だけ内緒なのね。いいわ、こうして一緒にお出かけできるだけで幸せだもの」 光は好き。それがどんなものであっても。希望を感じさせてくれるから。 次第に暗くなり視界から色彩が失われていく。車の光。街灯の光。街の光。黒と白の二色になった景色を、ぼんやり眺めながら期待を膨らませていった。 「さあ、着いたぞ。ラブ、せっちゃん」 「久しぶりね、ラブは二度目かしら」 「初めてだよ。せつなと一緒に見るのはね」 「そろそろ教えてくれてもいいでしょ。一体何なの?」 着いた場所は、川辺というより山の中。こんな夜中にこんな場所、それでも沢山の人が集まってきていた。一様に楽しそうに奥に奥にと歩いていく。ラブたちも続いた。 道中にせつながしびれを切らして尋ねた。あゆみが苦笑しながら教えてくれた。 この一帯は、源氏蛍がたくさん繁殖していることで有名なんだって。ちょうど梅雨の今頃が、一番綺麗に見られるんだって。 体内に発行器を持ち、群れを成して幻想的な光を放つ。図鑑で読んだことしかないせつなにとって、それは素晴らしく興味を引かれることだった。 「着いたわ。ここよ」 「わは~。どこかな、どこにいるのかな」 「まだ少し早いぞラブ。もうすぐじゃないかな」 「あの大きな川が、上流だとこんなに細くなるのね」 「もっともっと、最後にはまたげるくらい細くなるんだよ」 暗がりの中、大勢の人が期待を膨らまして時間の訪れを待つ。源氏蛍の発光時間は、夕方の八時半くらいから九時半くらいなのだとか。 遠くに行ってはぐれたら危ないわよ。そんなあゆみの忠告にも我慢できず、ラブとせつなはあちこちと探し回った。 「あれ、おかしいな」 「いつもなら、今頃はたくさん光るわよねえ」 「もう、九時になるよ。どうしたんだろう」 「人がたくさんいて驚いて逃げちゃたのかしら」 待てども待てども蛍は現れない。ざわざわと周囲の人々も戸惑の声を上げはじめた。 「年々、数が減ってきているとは聞いていたが……」 「寂しいわね。もう、見られないのかしら」 「そんな――きっと、どこかにいるはずだよ」 「私、探してみる!」 思いつめた表情でせつなが駆けだした。 蛍を見られないのは残念だ。そして、自分を喜ばせようとしたおとうさんやおかあさんやラブ。 期待を膨らませてここまで見に来た、沢山の人達のがっかりした顔を見るのが何より辛かった。 必ず――見つけてみせる! みんなを――笑顔にするために。 人より優れた五感、視覚を研ぎ澄ませて周囲を探る。 いない――どこにも―― 時間ばかり過ぎる。気持ちが焦る。 川辺を駆け回っても何も見つけられない。一度戻ろうとして振り返る。山の方で何かが動いた。 「あれは……。見つけたっ!」 ほんの一瞬、瞬きするほどの刹那の光を捉える。光の残光から進路を推測して追いかける。 「どこに行くの、せっちゃん。そっちは山の中よ。蛍は川辺、水のある場所にしか居ないわ」 「危ないから戻ってきなさい!」 「せつなっ、何か見つけたの?」 すぐ戻るから! 振り返りもせず、蛍の飛んだ方向を追いかける。見失ったらお終いだ。 蛍はせつなを誘導するかのように、時折光りながら飛び続ける。奥に、奥に、山の中に。 足場の悪い、細い道をくぐり抜けると開けた場所に出た。 まばらに美しい配置で茂る樹木。しっかりした地面に生える柔らかい草。空も広く見渡すことが出来て。もし、昼間に来たらさそがし美しい場所だろうなと感じた。 目の前に灯る一点の光、さっきの蛍だ。観念したかのようにじっと動かない。 「ごめんなさい、みんなにあなたを見せてあげたいの。そしたらすぐに放してあげるから」 そっと手を伸ばす。その時――異変が起こった! 光が――増えていく。 ひとつ。ふたつ。みっつ。よっつ。いつつ。せつなの手を中心に光が広がっていくように。 やがて光が草むらを覆いつくす。樹木にも光が灯る。それは、どんなイルミネーションよりも美しかった。 幻想的な光景。自然が生み出しているのに、現実感がまるでない。 せつなは息をするのも忘れて座り込んだ。 「せつなっ!」 「せっちゃん!」 「せっちゃん、大丈夫か!」 心配して追いかけてきたのだろう。ラブとおとうさんとおかあさんが駆け寄る。 そして――同じように光の生み出す奇跡の芸術に目を奪われる。 「綺麗……」 「こんなの、見たことないわ……」 「これは……姫蛍か。聞いたことはあったが」 美しきエメラルドの光。源氏蛍より短い周期で光る希少な蛍。森の中で生息する不思議な習性。 「すご……い。凄いよっ。せつなのおかげだね!」 「これは、忘れられない夜になりそうだね」 「お疲れ様、せっちゃん。でも、あんまり無理しちゃダメよ」 「私――行かなきゃ。みんなに――ここを教えてあげなきゃ!」 すぐ戻るから。さっきと同じことを言って、再びせつなが駆ける。その手をラブがつかむ。 「あたしも行くよ、せつな。みんなで見たほうが、きっと、もっと綺麗だよね」 「うんっ!」 荒れた道を急いで駆け下りる。滑り降りるようにして川辺に戻ってきた。 ラブが大きな声で、帰り支度を始めている人たちを呼び止める。響き渡る高い声は、集まった人々の興味を引きすみやかに一所に集めた。 せつなが一列に誘導して案内する。 「足場が悪いので気をつけてください。小さな子は手を引いてあげてください」 「せつな、これで全員だよ」 「ありがとう。ラブは後ろからはぐれる人がいないか見てて」 木々の間をくぐり、蛍の園に戻る。ワイワイ騒いでいた人たちが言葉を失う。 蛍の数はさらに増えていて―― それは、まるで星空が降りてきたかのように見えた。 「おかえりなさい、ラブ、せっちゃん。おつかれさま」 「偉いぞ。ラブ、せっちゃん」 圭太郎とあゆみがそれぞれ二人の娘の頭を撫でる。二人は顔を見合わせて嬉しそうに微笑んだ。 しばらくの間、みんなは茫然と光の演奏に魅了された。一面を覆いつくす淡い無数の光点。 不思議な曲線を描きながらふわふわと動く光の幻想曲。零れる感想はため息のみ。 そして起こる、もう一つの奇跡! 「ラブ……あれ……空が――晴れるわ――」 「星が……星が……降りてくる――」 『わあぁぁぁ――』 上空の風が運んだ贈り物。雲が割れ空が晴れていく。星が顔を覗かせ、徐々に広がっていく。 それは、初めてせつなが蛍を見つけ、その光が広がった様子にも似ていて―― 高原の美しい空から見る星空は、落ちてきそうなくらい近くにはっきりと見えた。家から見る星空よりも、何倍もたくさんの無限の光が視界を覆う。 そして――繋がる。 天空の星空と地面の蛍の光の絨毯が、空に舞う蛍の光で繋がれていく。 視界一面を埋め尽くす白と緑の光の競演。この世のものとも思えない、それは不思議な光景だった。 「ラブ――少し怖いくらいよ。星空の中に放り出されたみたいに。でも、綺麗……」 「わかるよ、せつな。あまりにも綺麗で、一人じゃ受け止めきれないんだよね」 畏怖すら感じる圧倒的な美しさ。人々は肩を寄せ合い、集まるようにして見つめ続けた。 ラブはせつなの手をしっかりと握った。星空が隠れ、蛍が光を失うまでの間――ずっと。 半時ほど後、黒いカーテンが降りるかのように再び辺りは暗闇に包まれる。 人々は余韻に引きずられ言葉少なげに、でもしっかりとラブとせつなにお礼を言って帰っていった。 せつなは感動に目を潤ませて、おとうさんとおかあさんにお礼を言った。 「ありがとう。おとうさん、おかあさん、ラブ。私、今夜のこと一生忘れない」 「あたしもだよ、ありがとう。せつなのおかげで見れたんだもの」 「わたしも忘れないわ、せっちゃん。でも、忘れられないのは私たちだけではないわ」 「素敵な場所を案内してくれた優しい女の子と奇跡の夜。ここに来た人は忘れないだろうね」 せつなは恥ずかしくなって顔を真っ赤にしてうつむく。 「さあ、あたしたちも帰ろっ!」 ラブが嬉しそうに駆け出した。 繋ぎっぱなしの、せつなの手を引きながら。
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/900.html
せつなの武装神姫 時系列まとめ 註 この時系列順に読む事を推奨はしません。大まかに「こんな流れだったんだ」という事を説明する為に並べ換えただけです。 僕とティキ そのいち・改訂版 「前夜」 僕とティキ そのに・改訂版 「回顧録・一」 僕とティキ そのさん・改訂版 「良く晴れた日」 僕とティキ そのよん 「初陣」 僕とティキ そのご 「思春期男子なんだから時にはそういう事もある」 僕とティキ ばんがい 「これがティキの日常なのですよ」 僕とティキ そのろく 「類は共を呼び友になるのか?」 僕とティキ そのなな 「回顧録・二」 僕とティキ そのはち 「そうだ、有名ショップに行こう♪」 僕とティキ そのきゅう 「たまには勝敗の無いゲームを」 僕とティキ そのじゅう 「そして少年は少女と再会す」 僕とティキ そのじゅういち 「勝ち負けよりも価値ある性質の立ち合い」 僕とティキ そのじゅうに 「口に出して言うには恥ずかしい話」 僕とティキ そのじゅうさん 「強敵と書いてもテキとしか呼ばない!」 Y.E.N.N 第1幕 「未熟な利己主義者」 ―断片― 断片1 ―海神― 僕とティキ そのじゅうよん 「そして明日は笑おう」 僕とティキ そのじゅうご ふたつめ 「さあ反撃の狼煙を上げろ・2――回顧録・三――」 Y.E.N.N 第2幕 「はるか遠くの始まり」 Y.E.N.N 第3幕 「同じ錯角が生じる位置」 僕とティキ そのじゅうご みっつめ 「さあ反撃の狼煙を上げろ・3――ジジィと神姫――」 僕とティキ そのじゅうご よっつめ 「さあ反撃の狼煙を上げろ・4――エルゴのおうさまたち――」 僕とティキ そのじゅうご ひとつめ 「さあ反撃の狼煙を上げろ・1――いまはおやすみ――」 僕とティキ そのじゅうご いつつめ 「さあ反撃の狼煙を上げろ・5――風輝纏いし猫戦姫――」 Y.E.N.N 第4幕 「視線を移した先」 Y.E.N.N 第5幕 「心の指し示す場所」 Y.E.N.N 第6幕 「思惟の共鳴現象」 Y.E.N.N 第7幕 「意思の同調状態」 僕とティキ そのじゅうろく 「僕らの上に雪が降る」 & Y.E.N.N 最終幕 「其の求める名は」 ―断片― 断片2 ―きらり― ―断片― 断片3 ―僕とティキの番外編― なつのとびら 1 「朔良」 なつのとびら 2 「アミューズメントパークにて」 なつのとびら 3 「夢絃」 なつのとびら 4 「露草流音」 なつのとびら 5 「ある日」 なつのとびら 6 「…………」 なつのとびら 7 「暗い夜」 なつのとびら 8 「そして公園にて」 雪那とティキと――僕とティキのつづき―― 回の00 「不変ではいられない僕ら」 なつのとびら 9 「後始末」 雪那とティキと――僕とティキのつづき―― 回の03 「朔が咲いたその日」 雪那とティキと――僕とティキのつづき―― 回の01 「二人目で初めて(?)の神姫」 雪那とティキと――僕とティキのつづき―― 回の02 「朔とそして……」 雪那とティキと――僕とティキのつづき―― 回の04 「たまにはこんな夜」
https://w.atwiki.jp/lls_ss/pages/80.html
クロス・パロディ・オマージュ 別作品とのクロスオーバー、パロディ、オマージュなどはこちら 元作品がネタバレになる可能性を考慮して、元作品は白文字で記載してあります 気にしない、という人のみ反転してください 詳細にはネタバレを含む概要が書かれている場合があります スレタイ クロス・パロディ・オマージュ元 備考 日付 千歌「5億年ボタン…?」 5億年ボタン ホラー 20160709 梨子「警備員の深夜アルバイト?」 Five Nights at Freddy’s ホラー 20160819 【ラブライブ!サンシャイン!!】33分Aqours 33分探偵 コメディ 20160910 SS スーパーマリオハラサンシャイン スーパーマリオサンシャイン コメディ 20160915 沼津ウォーズ ヨウの復讐 スターウォーズ 短編・SF 20160918 SS 曜「内浦に出現した正体不明の巨大普通怪獣対策本部」 シン・ゴジラ 20160921 曜「D.T.フィールド展開!」 新世紀エヴァンゲリオン 短編・カオス 20161009 ダイヤ「千歌? 贅沢な名ですわね、今から貴女の名は千ですわ!」 千と千尋の神隠し 20161011 SS 鞠莉「ヨッシーアイランド」 スーパーマリオ ヨッシーアイランド コメディ 20161011 曜「余命20レス....?」 余命100コマ コメディ 20161013 善子「堕天使は天使と結婚出来ないと思った?」 SS ネトゲの嫁は女の子じゃないと思った? よしルビ・ほのぼの・コメディ 20161012 千歌「ロボトミー手術?」 シャッターアイランド ミステリ・サスペンス 20161025 ss はなまるこちゃん ちびまる子ちゃん コメディ 20161027 千歌「GANTZ?」 GANTZ SF・バトル 20161027 ベジータ「おいルビィ!μ sのライブに行くぞ!!」ルビィ「ええっ!?チケット取れたの!?」 ドラゴンボール コメディ 20161126 腸詰工場の少女 腸詰工場の少女 シリアス・鬱 20161203 花丸「オラは国木田花丸!15歳の誕生日に襲ってきた眼魔に倒され」 仮面ライダーゴースト 特撮 20161206 曜「ココロのスキマ、お埋めします?」 笑ゥせぇるすまん 20161218 【Aqours昔話】千歌「みかんの恩返し」 昔話 20170105 【SS】梨子 「浦女に伝わる呪い…?」 千歌 「毎月人が死ぬの」 Another ホラー・ミステリ 20170322 善子「麻雀?」ダイヤ「何も書いていませんわ、はずれですわね」 ギャグマンガ日和 コメディ 20170416 善子「ヨハネはギャルゲーなんてやらないわよ! こちら葛飾区亀有公園前派出所 コメディ 20170419 ダイヤ「わたくしはゲームなんてやりませんわ!」 こちら葛飾区亀有公園前派出所 コメディ 20170423 【SS】機動戦士ガンダムAqours EP1「海の呼び声」 機動戦士ガンダムシリーズ SF・バトル 20170418 曜「千歌…ちゃん?」 高坂「……」 GANTZ SF・バトル 20170403 ダイヤ「ダイ・ハード サン4ャイン」 善子「code;10.0」 ダイ・ハード バトル 20170628 千歌「カタストロフィ…か」 GANTZ SF・バトル 20170618 梨子「カードキャプター」善子「さくらうち?」 カードキャプターさくら クロス 20170717 曜「え?このボタンを押すと100万円が?」 5億年ボタン 短編・SF 20171023 ルルーシュ「ラブライブ予選と学校説明会が同日開催だと?」 コードギアス クロス・コメディ 20171022 果南「レズデター2」 鞠莉「内浦に潜む怪物」 プレデター2 バトル 20171027 鞠莉「未来から果南を助けにきたよ」 果南「え?」 バック・トゥ・ザ・フューチャー SF 20171108 手塚国光「スクールアイドル…ですか?」ルビィ「うゆ!」 テニスの王子様 クロス・コメディ 20171114 鞠莉「壮絶カラオケバトルよ!」 こちら葛飾区亀有公園前派出所 コメディ 20171117 花丸「本当に中学生ずら!?」真田弦一郎「うむ!いや、はい」 テニスの王子様 クロス・コメディ 20171118 曜「ラストミッション・ハレルヤチャンス」 プロポーズ大作戦 恋愛 20171103 曜(25)「千歌ちゃんの結婚式」 プロポーズ大作戦 恋愛 20171118 鞠莉「壮絶たこ焼きバトルよ!」 こちら葛飾区亀有公園前派出所 コメディ 20171125 手塚国光「ピギャアアアア!!!」ルビィ「手塚くん!これ以上ルビィのために無茶しないで!」 テニスの王子様 クロス・コメディ 20171125 「「たいせつなきみ」」 たいせつなきみ 20171129 【SS】果南 「恋にオちる」 千歌 「それは“悪夢”だよ」 キャサリン 20171206 善子「恵まれし子らの学園!」 X-MEN SF・バトル 20180202 【SS】 リリーのアトリエ リリーのアトリエ ほのぼの・ファンタジー 20180329 善子「のっぽパンマン?」 サンドウィッチマン 短編・コメディ 20180423 ダイヤ「今日集まってもらったのは他でもありません」 銀魂 短編・コメディ・パロディ 20180528 善子「パルプ・ヨハリリー……!?」 パルプ・フィクション 群像劇・よしりこ・ようちか 20180530 黒澤ダイヤの事情 彼氏彼女の事情 パロディ・だいかなまり 20180516 ダイヤ「全自動たまご割り機ですわ!!」 サザエさん パロディ・コメディ 20180224 善子・ダイヤ「密着!危険なふたり!」 こちら葛飾区亀有公園前派出所 パロディ・コメディ・ダイよし 20180625 |c||^.- ^||「かなんおじさん」 トムとジェリー パロディ・コメディ 20180705 千歌「メノノリ ゲットだよ!」 ポケットモンスター パロディ 20180712 千歌「せっかくの誕生日なのにレズタルワールドに迷いこんだの…」 デジタルモンスター 短編・パロディ・コメディ 20180801 竹原「お前らスクールアイドル舐めとるけぇのぉ」千歌「へっ?」 ガチンコ! クロス・パロディ 20180812 千歌「そびえ立つ地獄…。」 タワーリング・インフェルノ パロディ 20180925 【SS】ブラック・ダイヤのカルテ01:地下水道 ブラック・ジャック 短編・顔文字・パロディ 20180909 【SS】ブラック・ダイヤのカルテ02:人面瘡 ブラック・ジャック 短編・顔文字・パロディ 20181014 花丸「星のルビィ」 星のカービィ パロディ・ほのぼの 20181123 ルビィ「手塚くん浦の星受けりゅの!?」 手塚「はい」 テニスの王子様 クロス・コメディ 20181124 【星のルビィ】カナン「包丁人ルビィ」 星のカービィ パロディ・ほのぼの 20181128 善子「きみここの法則」 イエスマン “YES”は人生のパスワード 20181203 穂乃果「敗北を知りたい」千歌「シンクロニシティ?」 バキ 最強死刑囚編 バトル・コメディ・パロディ 20181204 【星のルビィ】花丸「みかん大食い競争」 星のカービィ パロディ・ほのぼの 20181222 千歌「寝そべり・ストーリー」 トイ・ストーリー パロディ・ちかよし・寝そべり・画像有 20181224 五郎「静岡県沼津市内浦の活あじ丼とのっぽパン 孤独のグルメ クロス・ほのぼの 20170115 【星のルビィ】マリー「アクアランドのサンタさん」 星のカービィ 短編 20181225 ダイヤ「おい、国木田。会長の盃よこせやとコラ」 アウトレイジ ビヨンド 短編・パロディ 20181229 ルビィ「あなたの名前は…?」 1日外出録ハンチョウ 短編・パロディ・コメディ 20181231 曜「あなたがブラック・ジャック先生ですか……?」BJ「フフ……」 ブラック・ジャック クロス 20190122 ルビィ「理亞ちゃん!お姉ちゃんと果南しゃんと鞠莉しゃんの三人が集まると、どうなると思う?」 トム・ブラウン パロディ・コメディ 20190127 曜「ラブライブ! グランプリ!! イン アキハバラ!!!」 カーニバル・ファンタズム パロディ・コメディ 20190203 ダイヤ将軍「くっくっくっ……ついにカナンサンも年貢の収め時ですわぁ……」 天体戦士サンレッド 短編・パロディ・コメディ 20190212 鞠莉「久々に会ったし、卓球で勝負しましょう」果南「いいね」 ラーメンズ 短編・パロディ 20190216 千歌「出川の走ってきた道は…」 出川哲朗 短編・クロス 20190225 曜「ドスライズ」 東京03 パロディ・コメディ 20190304 希「7つの大罪」曜「殺人事件」 セブン パロディ・サスペンス・安価 20190228 善子「影廊」ルビィ「夕暮れの迷宮から脱出」 影廊 -Shadow Corridor- ホラー 20190405 千歌「エマ・ワトソンが転校してきたのだ…」 エマ・ワトソン 短編・クロス・ほのぼの 20190414 花丸「善子ちゃんが引っ越し!?」 ドラゴンボール 短編・クロス・パロディ・コメディ 20190401 穂乃果「百年経ったらまたおいでッッ」千歌「ライタイ祭?」 バキシリーズ バトル・コメディ・パロディ 20190202 千歌「ここは何処なのだ?」 仮面ライダー龍騎 クロス・バトル 20190417 【ラブライブ!サンシャイン!!】善子「傷だらけの雷神様と私」【アベンジャーズ】 マイティ・ソー 短編・クロス 20190501 現代メノノリ概論 ラーメンズ 短編・コメディ・パロディ 20190526 ダイヤ「今日は...風が騒がしいですわね」 男子高校生の日常 短編・パロディ・コメディ 20190530 なぞの生物メノノリの飼い方 カジャラ 短編・パロディ・カオス 20190531 ルビィ「喰いタン花丸ちゃん」 喰いタン パロディ・ミステリ・サスペンス 20190604 梨子「はい千歌ちゃん、凛ちゃんラーメンだよ」 ラモス瑠偉 短編・パロディ 20190620 善子「はじめてのおつかいinローマ」 世界の果てまでイッテQ! パロディ・コメディ 20190624 千歌「ヤッてやるさ……………ッッ」梨子「何を?」千歌「セックス」 バキ特別編SAGA コメディ・パロディ 20190628 ルビィ「生徒会長への道」 鈴々舎馬風 短編・パロディ 20190628 【SS】千歌 「生きるために何を喰らう」 仮面ライダーアマゾンズ パロディ・ホラー・バトル 20190727 サイコレズ─監視官高海千歌 PSYCHO-PASS パロディ・SF 20190409 鞠莉「果南が暴漢に刺された……」 力道山 シリアス・コメディ 20190731 梨子「私は梨子ンボイ司令官だ」 戦え!超ロボット生命体トランスフォーマー 短編・パロディ・コメディ 20190825 【SS】梨子ちゃんに叱られる! チコちゃんに叱られる! 短編・パロディ 20190903 【SS】世界ガチレズ童話集 イソップ童話他 パロディ・コメディ 20190826 梨子「古典で百合を感じるわ!」 枕草子他 コメディ・パロディ 20190908 【CYaRon!昔話】ルビィ「かぐや姫、がんばるビィ!」 竹取物語 短編・パロディ・コメディ 20170804 梨子「鈍い獣の流す涙よ」 鈍獣 パロディ・サスペンス 20191013 月「秋葉原の大手ファストフード店」 孤独のグルメ 短編・パロディ 20191029 ルビィ「善子ちゃん、BULLYってゲーム知ってる?」 BULLY 短編・コメディ・パロディ 20191031 千歌「新人ハンターのチカです!」 モンスターハンター パロディ・バトル 20191029 聖良「これが…フランシュシュ」 ゾンビランドサガ クロス 20191125 Aqours「収容違反っ!!!」 SCP ホラー・コメディ 20191222 曜「あれぇ? こんなところにハンバーガー屋が……」 サンドウィッチマン 短編・パロディ・コメディ 20200126 ルビィ「ルビィの推しはもちろん!」 花丸「え…誰ずら?」 アンジャッシュ パロディ・コメディ 20200128 梨子「リコです…」 ヒロシ パロディ・コメディ 20200214 妹が書いた痛いss 静岡県沼津市の怪談」 高橋邦子 短編・オマージュ・カオス 20200304 千歌「モンスターハンター!」 モンスターハンター バトル 20200317 千歌「仏の志満姉」 らんま1/2 短編・コメディ 20200330 ダイヤ「魔法少女マジカルダイヤですわ!」 魔法少女リリカルなのは 他 パロディ・バトル 20200410 梨子「桜内梨子は告らせたい」 かぐや様は告らせたい パロディ・コメディ・ようりこ 20200501 千歌「セイントスノーに勝つためにはどうしたらいいんだろう…」ぶりぶりざえもん「私に任せておけ」 クレヨンしんちゃん 短編・クロス・コメディ 20200517 松浦爺「お前これからどうするんだ」果南「えっ?」 空気階段 短編・パロディ 20200606 果南「ダイヤってさ、なんでハンバーグが嫌いなの?」 ハンバーグ師匠 短編・クロス・コメディ 20200606 天才バカチカ 天才バカボン 短編・ほのぼの・パロディ 20200701 ルビィ「もしも姉妹が入れ替わったら」 土佐兄弟 短編・コメディ・パロディ 20200802 内浦妖魔學園記 九龍妖魔學園紀 バトル・ホラー 20201018 从c*^ヮ^§「いらっしゃいませ!ご注文は?」客「オレンジジュースください」 幽遊白書 短編・顔文字・ほのぼの・クロス 20201231 【SS】ルビィ「神仏集合のソシャゲ?」善子「ええ」 【ニコニ小噺】坊主が帳簿に上手にソシャゲで書き入れた 短編・コメディ・パロディ 20210102 >>3と>>5の カップリングを全力で持ち上げるスレ 麻生太郎 短編・安価・ほのぼの・しんみり・クロス 20200827 果南「最近鞠莉がハマってるゲームが思い出せないんだよね」ダイヤ「んまーそれは大変ですね」 ミルクボーイ 短編・コメディ・パロディ 20210103 ダイヤ「お抹茶をいただけますか。薄茶ではなく、濃茶で。」 キングスマン シリアス・バトル 20210103 ダイヤ「ダイヤの大冒険」 ダイの大冒険 パロディ・バトル 20210106 ルビィ「うぅ、宿題の作文が上手く書けないよぉ」 Aくんの作文 短編・パロディ・コメディ 20210125 曜「FAMILIAR」 ヤクザと家族 The Family 短編・クロス・しんみり 20210303 花丸「文系が恋に落ちたので棄却してみた」 理系が恋に落ちたので証明してみた 短編・パロディ・よしまる 20210304 曜「グッバイ、マイ・・・」 グッドバイ・マイ… 短編・パロディ・シリアス・感動 20210412 善子「すき家のキングは全盛期の時13杯と卵96個が限界だったわ」 コピペネタ 短編・パロディ 20210523 善子「影廊」ルビィ「再びあの迷宮へ」 影廊 -Shadow Corridor- ホラー 20210703 【SS】花丸「ヨハネちゃんはダークマターが見えたらしいずら」 意味が分かると怖い話 短編・パロディ・ホラー 20210809 アムロ「ンァッ!ダメですよ聖良さんっ!」 機動戦士ガンダム 短編・クロス・エロ・コメディ 20220304 海に還るもの クトゥルー神話 ホラー・オマージュ 20200921 从c*•ヮ•§ ラブライブ優勝したトワイライトタイガー ∫∫( c||^ヮ^|| 新日本プロレス 短編・顔文字・パロディ 20220630 果南「わ…私はーーーされた過去があるんだッ」 タフ クロス・コメディ 20221216 鞠莉「もー!ダイヤったら乳首も性格も硬度100なんだからぁ!」 SCP パロディ・ホラー 20221222 果南「キミ、ひょっとして……ポケモン?」ナミイルカ「キュイ!」 ポケットモンスター クロス・ほのぼの 20230703 曜「サイバーパンク アイアン・ドラゴン」 サイバーパンク2077 クロス・SF・バトル・ようえり 20230822 善子「――九つ墓村?」 八つ墓村 パロディ・ミステリ・サスペンス 20230713 |c||^.-^||「EXP・・Lesbian Sex Pointの略語ですわ」 メノ^ノ。^リ「・・・」 Undertale パロディ・コメディ 20171002 R-18G スレタイ クロス・パロディ・オマージュ元 備考 日付
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/439.html
「灯った火」/◆BVjx9JFTno シャワーの温度を、 少し下げた。 それでも、体の熱は さめない。 どのくらい、シャワーを 浴び続けているだろう。 荒れ狂っている、 体と、心。 美希ちゃん以外に、 抱かれた。 美希ちゃんも、 私以外を、抱いた。 背徳感。 羞恥。 悲しみ。 色んな感情が渦巻く中、 快感だけが、突き上がってきた。 心と裏腹に、体は 愛撫に反応した。 自分から、腰を浮かせて ラブちゃんの指を受け入れた。 見られながら、 激しく、乱れた。 その興奮は、 今もおさまっていない。 流しても、流しても、 あふれ続ける泉。 愛撫を求めて、 硬く尖る乳首。 早鐘を打ち続ける胸。 お風呂場のドアが開いた。 「きゃっ...!」 「ごめん、なかなか出てこないから...」 目の前のせつなちゃんは、 裸だった。 「せつなちゃん、服...」 「もう、散々見られてるから...」 シャワーをせつなちゃんに渡し、 バスタブに身を沈めた。 「ごめんね、ブッキー...」 「せつなちゃんが、謝ることないよ...」 水音が響く。 「何だか解らないけど...」 壁の方を向いている せつなちゃんは、耳まで赤い。 「体が、ずっと熱いの...」 私と、同じだ。 「あんなに恥ずかしかったのに...」 せつなちゃんも、 まだ...なの? 上気した肌。 きれいな背中。 きゅっと上がった、 おしり。 息が荒くなるのが、 自分でも、わかる。 バスタブから上がり、 せつなちゃんを後ろから 抱きしめる。 せつなちゃんが、ぴくりと 体を震わせる。 「ブッキーの...当たってる...」 「うん...私も同じ...」 滑るような、 せつなちゃんの背中。 私の乳首が、 さらに硬く尖る。 手を回し、せつなちゃんの 乳首に触れる。 「ふっ...!」 せつなちゃんの口から、 息の固まりが飛び出す。 「せつなちゃんも、同じ...」 両手の人差し指で、せつなちゃんの 乳首を、優しく弾く。 せつなちゃんが、身をよじる。 「せつなちゃん...」 耳元でささやき、 耳を舌でなぞる。 「ふぅんっ...」 せつなちゃんが急に 崩れ落ちる。 あわてて抱きとめる。 「せつなちゃん、大丈夫...?」 「力が...入らない...」 シャワーを止め、お風呂場の床に せつなちゃんを座らせる。 向かい合わせに座り、 せつなちゃんの脚を、大きく開く。 せつなちゃんのそこは、既に 糸を引くほど、あふれている。 「せつなちゃん、すごくエッチ...」 「や...見ないで...」 せつなちゃんの泉に、触れる。 「ふうっ...!」 せつなちゃんの手を取り 私の、そこに導く。 せつなちゃんの指先が、 ゆっくりと這い回る。 とても恥じらった、 真っ赤な顔。 なのに、手は こんなに淫らに動いてる。 せつなちゃんも、私も、 火がついちゃってる。 顔を近づける。 せつなちゃんが顔を上げ、 私の唇を吸いに来た。 すぐに、舌が入ってくる。 美希ちゃんやラブちゃんとは違う、 舌の感触。 ゆっくり、絡める。 鼻から、息が漏れる。 体を寄せる。 脚を絡ませ、私とせつなちゃんの 泉を、重ねた。 聞こえるほど、音がした。 はっきりわかる、 せつなちゃんの、感触。 きれいに咲いた、花びら同士が お互いのしずくを、吸い合う。 膨らんだ突起が、触れあう。 「んっ...!」 「ふっ...!」 ふたりの体が、同時に跳ねる。 ゆっくりと、突起を擦り合わせる。 蜜が跳ね、音を立てる。 せつなちゃんも、私の動きに合わせるように 腰を浮かせて、突起を擦りつける。 何も、考えられなくなった。 溺れるまま、腰を動かす。 感じるまま、声を上げる。 ふたりの激しい動きと、 甘い叫び。 「祈里!」 「せつな!」 声が聞こえたのか、ラブちゃんと 美希ちゃんが、あわてた様子で お風呂のドアを開けた。 止まらなかった。 私とせつなちゃんは抱き合ったまま 昇りつめ、激しく跳ねた。 蜜の音と、声が お風呂場に響き渡った。 体に、力が入らない。 私とせつなちゃんは、床に転がったまま 余韻に溺れた痙攣を繰り返す。 ラブちゃんと美希ちゃんが 何か言っている。 ごめんなさい。 でも、もう止まらないの... 体を起こし、 美希ちゃんに抱きつく。 美希ちゃんの服が濡れるのも 構わず、顔中に唇を這わせる。 「何で!どうしたの祈...んんんっ!」 舌をねじ込む。 美希ちゃんの瞳が、 とろみを帯びる。 ラブちゃんの胸に手を伸ばし、 激しく揉みしだく。 いつの間にか、せつなちゃんが 体を起こし、ラブちゃんのお尻に 顔を埋めている。 「はあっぁ...また体が...」 ラブちゃんが、甘い声を上げる。 頭の中が、空だった。 欲望のままに、 舌を這わせる。 手当たり次第に 舐め、撫で、かき回す。 同じように、舐められ、 撫でられ、かき回される。 果てしない快感に、 堕ちていく感覚。 でも、それは永遠ではなく。 「ただーいまー」 玄関での靴音に、私たちは 一気に、現実に引き戻された。 美希ちゃんを洗い場に残し、 残り3人で、バスタブに入る。 ぎゅうぎゅうだ。 「おじゃましてます...」 「あらあら、仲良しねぇ」 ちょっと、 仲が良すぎだったかな。
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/310.html
翼をもがれた鳥 第17話――幸せの素に導かれて―― 白く、しなやかな指がペンダントのチェーンにかかる。 絹糸のように細い輪の連なり。ほんの一瞬の抵抗の後、弾けるように宙に舞う。 手を真っ直ぐに伸ばす。千切れた鎖の先で輝きを放つ、幸せの素を高く掲げる。 贈ってくれた人の目に、しっかりと映るように。 向かい合う少女は、信じられないといった面持ちでその動きを見守る。 心は凍りつき、感情は形を成さない。思考だけが状況を正確に、そして無慈悲に、記憶に刻み込んでいく。 (やめて、お願い、やめてぇ――!!) 届かない。どんなに叫んでも、今のせつなの声は決して届くことはない。 これは、夢の中なのだから。 せつなと、そして、きっとラブにも刻まれた過ちの記憶なのだから。 チェーンをつかむ指から力が抜け、ゆっくりと落下していく。まるで、スローモーションのように。 固いコンクリートの床に叩き付けられ、軽くバウンドする。 ズキン――ズキン――ズキン ズキン――ズキン――ズキン――ズキン ズキン――ズキン――ズキン――ズキン――ズキン 痛い、痛い、痛い。心が――砕け散りそうになる。 まるで自分の魂が、その緑色のアクセサリーに封じ込められてでもいるかのように。 踵で踏み付けて力を込める。形を変えるはずのない硬い樹脂が、ほんの一瞬だけ歪む。 軋みを上げることもなく、割れる音を大きく響かせることもなく。 悲しいほどにあっけなく――四散した。 『翼をもがれた鳥――幸せの素に導かれて――』 「はあ、はあ、はあ、はあ、はあ」 激しい運動ですら、滅多に乱すことの無いせつなの呼吸が荒れる。 額に滲む大量の汗は、寝苦しいほどに熱い気温のせいだけではないだろう。 「ある。――ちゃんと、ここに……」 ベッドの宮棚に大切に置かれた、緑色のアクセサリーを手にする。 もう、欠片とは呼べないだろう。 砕けた破片の中から見つかった四つ葉の一枚。それを削って、磨き上げて、ハート型に仕上げたのだ。 このままでは、あまりにも悲しかったから。 後悔以外の――意味を与えたかったから。 トン、トン、トン パジャマを着替えて、静かに階段を降りる。 まだ起きるには早い時間かと思ったが、あゆみは既に家事に取りかかっていた。 居間の隣、和室と呼ばれる畳で敷き詰められた部屋。そこで先の尖った器具で作業をしていた。 邪魔をしてはいけないと思い、その場で待つことにした。 しばらく後、作業が一段落したのか、あゆみは廊下でたたずむせつなに気が付いて振り返る。 「おはよう、せっちゃん。どうしたの? こちらにいらっしゃい」 「おはよう、あゆみおばさま。邪魔しちゃってごめんなさい」 なんとか丁寧語を崩そうと、懸命に努力しているせつなの挨拶が可愛らしかった。あゆみはせつなを招き寄せる。 アイロンかけはほとんど終わっていたのだが、せつなの様子から、興味がありそうに見えたからだ。 不思議そうな顔で見つめるせつなに、やってみたら? とあゆみが持ちかける。 少し恥ずかしそうにはにかんで、せつなは頷いた。 霧を吹き、細かい部分から順に、直線的に動かしていく。 右手でアイロンの先を浮かして動かしながら、左手で器用に生地を引っ張っていく。 見る見るうちに美しく仕上がっていく。 あゆみは驚きに目を見開いた。 確かにアドバイスはした。素直に頷きもした。しかし、せつなの手はそれを始めから熟知しているかのように動く。 その動きは、あゆみと比べても遜色のないものだった。 「すごく上手ね、せっちゃん。やったことあったのね」 「いいえ、これが初めてです」 「えっ? でも、教えていないことまで……」 「さっきまで、おばさまのアイロンかけを見ていたから」 そのとんでもない言葉に、あゆみは一瞬、驚愕して身を引いてしまう。 改めて、まじまじとせつなを見つめる。その表情には、自信も、誇らしさもうかがえなかった。 それどころか、困ったような、不安そうな様子すら感じられた。あゆみの反応に、何か失敗してしまったのではないかと心配しているのだろう。 ふと、あゆみはラブの言葉を思い出す。 とてもつらい所で生きてきた子だからって。失敗したり、言うことを聞かなかったりしたら、それだけで命が奪われてしまう。 そんな世界で、ずっと暮らしてきた子だからって。 極限まで研ぎ澄ませた集中力。ずっと、この子はそんな風に張り詰めて生きてきたのだろう。 愛しくなって、あゆみはせつなをそっと抱き寄せた。 情緒が不安定なところもあるだろうけど、仕方がないの、わかってあげて。 ラブはそう言っていた。 情緒不安定はどちらかと思う。せっちゃんに変に思われないかしら? そう心配しつつも、抱き寄せる腕を離す気にはならなかった。 この子に一番必要なのは、この安心感だって気がしたから。 「おばさま?」 「ああ、ごめんなさい。嫌だった?」 「ううん――」 「そうだ、何か用事があったんじゃないの?」 せつなは小さく頷いて、ポケットから緑色の塊を取り出した。 大切そうに、両手に乗せてあゆみに見せる。 「大事なものなんです。壊してしまって……。もし、使わないチェーンか何かあったら」 「直したいのね?」 「はい。始めは四つ葉の形をしていたんです」 「ええ、ラブから聞いているわ。あの頃ね――」 ねえねえ、おかあさん、幸せの素って何だと思う? 商店街の福引の一等賞がそれなんだって。だから、どうしてもゲットしたいんだ。 キラキラと瞳を輝かせてラブはそう言っていた。 貯めてたお小遣いも全て使っちゃった。カオルちゃんのドーナツを食べるお金すら残ってないよ。 よく、そうボヤいていたものだった。 それでも諦めきれなくて、進んでお使いをかってでた。 買い物に出かけるたびに足を弾ませて、帰ってくるたびに肩を落として―― ある日、素敵なお友達と知り合うことができたって、ラブはそう言っていた。 その子はドーナツを食べるのが初めてなのに、惜しみなく半分こしてくれたって。 ジュースも買えなくてお水で喉に通したけど、これまで食べたどんなドーナツよりも美味しかったって。 その後、やっと幸せの素を手に入れることができたって。そして、それをその子にあげてしまったって。 ごめんなさいって、ラブはあゆみに謝った。 あゆみは、良かったわねって、そう言って微笑んだ。 「だって、そうでしょ? もっと欲しいものが、見つかったってことなんですもの」 「はい……」 せつなは、それを両手に握りしめて瞳を潤ませる。 あの日から、あゆみはその子のことが、ずっと気になっていたって。だから、こうして家族になれて凄く嬉しいって。 「そうそう、チェーンだったわね。待っててね」 「おばさま! それは――」 清楚な光沢を放つ白銀のチェーン。その先に付いているのは、ハートをあしらったプラチナの細工物。 その中央に丸くて大きなルビーが収まっていた。 それは、樹脂で成型されたものなんかじゃない。本物の――宝石だった。 「待ってください! それは、駄目です!」 「いいのよ。せっちゃん、赤が好きなんでしょう? だから、あげようと思っていたところなの」 専門知識の無いせつなにも、それが相当に高価なものだということくらいはわかる。 普段、宝石を身に付けないあゆみの持ち物であることを考えれば、大切な思い出の品だということも想像がつく。 せつなの制止も聞かず、あゆみはそれをチェーンから外し、代わりに幸せの欠片を取り付ける。 「器用でしょう? これでも職人の娘なのよ」 「私、そんなつもりじゃ――」 「いいの。ただし、ルビーは部屋にしまっておくこと。中学生が身に付けるものじゃないわ」 「中学生?」 「そうよ、もう手続きは済ませましたからね。せっちゃんはラブと同じ中学二年生よ」 できた! きっと、よく似合うわ。あゆみは、抱きつくような格好でせつなにペンダントをかけた。 そして、せつなの手を開いてルビーを握らせた。 情熱の赤い宝石。勝利の石とも呼ばれ、あらゆる危険や災難から持ち主の身を守り、困難に打ち克ち、勝利へと導くという。 「きっと、せっちゃんのことを守ってくれるわ」 「ありがとう――」 そこから先は言葉にならず、せつなは、今度は自分からあゆみに身を預けた。 飛び込むほどの勇気は出せず、触れるか触れないかの距離で全身を震わせて泣いた。 あゆみは優しくせつなの背中を撫でる。そして、心を込めて囁いた。 「幸せになりなさい。せっちゃん」 小さくて可愛らしいハート型のペンダント。せつなは、そっと首に戻して追憶を終える。 幸せになりなさい――あの時かけられたあゆみの言葉に、結局せつなは返事をすることができなかった。 今なら、胸を張って応えられるだろうか? はい――と。 無理だと思う。 それでも、せつなはこれから幸せをつかみに行く。 例え、一時のものであっても構わない。与えられるのではなく、自分から幸せを手に入れに行く。 (それをどうか――許してください) せつなはペンダントを握りしめて、静かに祈りを捧げた。 コンコン 部屋がノックされる。音の響きでラブだとすぐにわかる。 せつなは、急いでペンダントを服の中にしまって扉を開けた。 「せつな! ブッキーがせつなに会いたいって」 「ええ、わかった。私が迎えに出るわ」 「そっか。じゃあ、あたしはお茶を淹れてくるね」 祈里からせつなに会いに来る。それがラブには大きな驚きだった。 まだ、美希や祈里はせつなと馴染んでいるとは言い難い。ラブとしても気の使うところだった。 まして、祈里は控えめな性格で、自分から行動を起こすことは少ない。それだけに意外で、そしてありがたかった。 せつなが玄関まで迎えに出ると、祈里は嬉しそうに微笑んだ。 手には大きな包みを抱えている。せつなは自分の部屋に祈里を案内した。 「いらっしゃい、ブッキー」 「お邪魔します。わぁ~、せつなちゃんのお部屋かわいい!」 「ありがとう。とても気に入ってるのよ」 せつなは本当に嬉しそうに微笑んだ。もともと、自分のことを誉められて喜ぶような子ではない。 だけど、この部屋は別だった。この家と、この家族は特別だった。 「今日は、せつなちゃんにプレゼントを持ってきたの」 「ありがとう。何かしら?」 「これは――赤い、ダンス服? 私の……」 「せつなちゃんの、クローバー加入のお祝いよ。気に入ってもらえるといいけど」 「ありがとう――さっそく着てみていいかしら?」 「うん、わたしは外に出てるね」 「それは悪いわ。ブッキーになら、見られても平気だから」 「なら着つけを手伝っちゃう」 下着姿になったせつなを見て、祈里は息を呑む。 透き通るような白い肌の下に秘められた、強靭なる筋肉。鍛え上げられたスレンダーな肢体なら、美希で知っている。見たことがある。 だけど、またそれとは違う。魅せる力ではなく、秘める力。生き抜くことに特化した、戦うための肉体。 例えるならば、豹のようなしなやかさ。研ぎ澄まされた、刃物のような美しさ。一見女性らしい丸みを帯びながらも、その奥に弾けるようなバネを感じさせた。 「せつなちゃん……すごい……綺麗」 「もう、恥ずかしいからジロジロ見ないで」 「ごめん。じゃあ、寸法の微調整もしちゃうね」 「ええ、お願い」 祈里は、メジャーと針と糸を引っ張り出して仕上げにかかった。 大まかな寸法はラブと同じと聞いていたが、念のため調整が効くように仕上げを残しておいたのだ。 「お待たせ、ブッキー、せつな。って――何やってるの~~~!!」 「あっ、ラブ! これは」 「ちっ、違うの、ラブちゃん。脱がせてるわけじゃなくて!」 かろうじて、淹れたお茶をひっくり返さずにすんだラブに事情を話す。 フンフンと聞いていたラブだったが、納得がいくと、とたんに目を輝かせた。 「せつなって超キレイ~、あたしとはお風呂も入ってくれないんだよ」 「一緒に入ろうとしてたんだ……」 「ちょっと! もう、何の話よ。いいから服を返して!」 すっかりせつなの下着姿の鑑賞会になったことに、口を尖らせて抗議する。 身体を丸めてうずくまったせつなに、祈里は仕上げの済んだダンス服を手渡した。 「どう――かしら?」 「せつなちゃん、よく似合ってる!」 「うんうん、これでせつなもクローバーだね!」 「ありがとう、ブッキー」 「えっ、今、せつなブッキーって……。それに、ブッキーもせつなちゃんて……」 「うん、この間からなの」 祈里が嬉しそうに事情を話す。せつなも恥ずかしそうに頷いた。 よほどダンス服が嬉しいのか、せつなは姿見を眺めながら何度もクルクルとまわる。 そして、ラブの携帯に着信が入る。 「もしもし、美希たん? えっ、せつなに? うん、代わるね」 「もしもし、ええ、今はブッキーと私の部屋よ。うん、わかった。一緒に練習しましょう」 今度は、美希からせつな宛ての電話だった。親しげに話す様子に、ラブは目をパチクリさせる。 明日は、せつなにとって初めてのダンスレッスンだ。事前に、基礎だけでも予習しておこうとの美希からの誘いだった。 四つ葉町公園の、いつものダンス練習ステージに四人は集まった。 ピンク、ブルー、イエロー、そしてレッド。一際目立つ真っ赤なダンスウェアが、クローバーを華やかに彩る。 眩しい日差し、爽やかな風が心地良い。夏特有の命溢れる草木の薫り、生気漲る澄んだ空気が肺の中を満たしていく。 せつなは目を閉じ、それらを全身で感じ取る。 そして、一言、感慨深くつぶやいた。 「本当に、ここに立つことができたのね」 「ほんとうにって?」 「ラビリンスのイースだった頃、一度だけここで、みんなと一緒に踊る夢を見たの」 「わたしたちと?」 「ええ、ラブも美希もブッキーも。そして、ミユキさんに指導してもらっていた」 静かに、淡々と、感情を込めずにせつなは語る。 それでも、時々声が震えてしまうのは隠すことができなかった。きっと、それは歓喜の震えなんだろう。 ほんと、図々しいわよね。そう、自嘲気味に笑って締めくくった。 みんなも、もう分かっていた。せつなは、ずっと前からみんなの知るせつなであったことを。 そして、もう一つ。一見物静かなせつなの胸の奥には、真っ赤に燃えたぎる情熱の炎があることを。 「さあ、明日までに基本を一つでもマスターして、ミユキさんを驚かせちゃおう!」 「始めはゆっくりでいいからね、せつなちゃん」 「頑張ろうね! せつな」 「ええ、ありがとう。大丈夫よ」 自信を漲らせてせつなが答える。他の何を失敗しても、これだけはモノにしてみせる。 それが、この場にせつなを立たせてくれた、ラブと美希と祈里と、そしてミユキの気持ちに報いることになるのだから。 スタンドポジションからアティチュード、そしてアラベスク。コントラクションからリリース。 スポンジが水を吸収するかのように、せつなは次々に身に付けていく。 その動作の正確さは、最も美しいと言われる美希すら凌駕した。 「凄いよ、せつな。もうあたしより上手なんじゃ?」 「ラブ……。さすがにそれは問題があると思うわよ」 「あはは、でも、油断したらほんとうに置いていかれちゃいそう」 「ありがとう。ここまでは夢の通りね」 「そうだ! せつなのクローバー加入のお祝いに、ドーナツパーティーしようよ!」 「いいわね、やりましょう!」 「賛成!」 ラブの提案と、美希と祈里の賛成にせつなは目を丸くして驚いた。 ほんとうに、まるっきり同じ。もしかして、これも夢なんじゃないかとほっぺをつねってみた。 生々しい痛みと現実感。それが、涙が出るほどに嬉しかった。頬の痛みのせいにして、そっと目じりを拭った。 そして、行きましょう! とせつなからラブの腕を引いて走り出した。 何もかも同じ展開なんて癪に障るから。それなら、自分から変えてやろうと思った。うんと、楽しんでやろうと思った。 それに、最後は違う。絶対に違う。 これは夢ではないのだから。決して、覚めることはないのだから。 せつなは走る。 胸に輝くペンダントは、四つ葉ではないけれど。 もう――儚く砕けることはない。今も、そしてこれから先も、せつなの幸せを明るく照らしてくれるのだから。 第18話 翼をもがれた鳥――夢と幸せの継承者――へ続く
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/367.html
【熱帯夜】/恵千果◆EeRc0idolE 「せつな…もう寝ちゃった?」 一体わたし、どうしちゃったの?初めてのラブとの旅行(修学旅行だけど)だっていうのに…。 「ねぇ…せつな」 だいたいラブもラブよ。大輔だか何だか知らないけど、いちゃいちゃしちゃって…。 「せつなったら!」 「なによ!ラブのバカ!」 「…っ!いきなりバカ呼ばわりはないんじゃないの」 「そんなつもりじゃ…」 ラブはため息をついて布団から起き上がる。 「なんか今日のせつな…やっぱり変だよ。どうしたのかな?」 変にさせてるのはラブよ…。 「わわっ!何で泣くの!?あたし何かした?」 わたしは首を振る。判ってる。ラブが悪いじゃない。悪いのは…わたし。 「せつな…泣いてちゃわかんないよ」 「だって…自分が嫌になったんだもの」 「どこが?あたしはせつなの全部が好き」 「全部だなんて…大袈裟ね」 「大袈裟なんかじゃないよ!」 そう言って、ラブはわたしを抱きしめる。 「だって…初めて会った時からずっと、色んなせつなを見てきたんだよ?」 …そうだった。ラブはイースだった頃のわたしを愛してくれた、たったひとりの人。 「…バカって言ってごめんなさい」 「もういいよ…で、何を怒ってたの?」 「言えないわ…恥ずかしくて」 「いいから!あたし達の間で隠し事はナシだよ」 「だって…ラブが大輔くんとばかり…その…仲良くしてるから」 「なんだ、そんなことか!良かった~あたしてっきり、夕飯のせつなのラフテーを横取りしたこと怒ってるのかと…」 ラブはぎゅうぎゅう抱きしめてくる。 「ちょっとラブ!苦しいわ!」 「えへへ~だって嬉しいんだもーん。せつながヤキモチ妬いてくれて」 ヤキモチ…これがそうなんだ。本で読んで知識はあったけれど、自分が嫉妬しているなんて気づかなかった。 「ねぇラブ…」 「わかってる」 くちびるに触れる柔らかなラブの感触。ずいぶん慣れたはずなのに、いまだに胸が高鳴る。 「今日はまだしてなかったからさ。えへへ」 「…ありがと」 「けど、ヤキモチ妬くせつなも可愛いよね」 「次はラブが妬く番よ」 「え?」 「ふふっ…冗談よ」 本当は、半分本気だった。いつか…ヤキモチを妬いてもらえるくらい、好きにさせてみせるんだから。 今度はわたしからくちづける。確かめ合うように、深くゆっくりと。 沖縄の熱い夜は、まだまだ始まったばかり。
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/157.html
「いつか来る、その日まで」/黒ブキ◆lg0Ts41PPY 四月。あたしとブッキーと美希たんは三年生になった。 ブッキーと美希たんはエスカレーター式の中高一貫の私立だから、ある程度の 成績キープしてれば進学は問題ナシなんだって。 あたしと言えば……ガッタガタ。 ホント、現実感のカケラも無いなぁ。受験生、なんて。 まったく、せつなが勉強教えてくれるって思って安心しきってたのにさ。 せつながラビリンスに帰ってどのくらい経ったっけ。 部屋はいつも埃一つ無いくらいに綺麗に整えられてる。 お母さんが毎日の掃除は欠かさないから。 風邪引いたりして、他の家事は手を抜く事があってもせつなの 部屋の掃除だけは絶対にやってるの知ってる。 どんなに具合が悪くたって、あたしやお父さんには頼まないの。 あたしがするのはシーツ類の洗濯くらいかな。 お母さん、何も言わないけど知ってるはず。 あたしが夜はせつなのベッドで寝てるの。 ねぇ、せつな。 あたしこの頃寝坊ばっかだよ。せつなが朝起こしてくれないからさ。 この間とうとう遅刻しちゃった。 宿題もね、何とか忘れずにはやってるけど。 間違いだらけで再提出くらっちゃうの。 せつなと一緒にやってた時はそんなの一回も無かったのに。 体育の時間もね、あたしやっぱり球技って苦手みたい。 ボール持ってもすぐに誰かにパスしちゃう。それもうっかり敵に パスしちゃったりするもんだからさ。みんな呆れてたよ。 ねぇ、せつな。 あたしね、せつながこっちにいた頃、結構せつなの事フォローしてた つもりになってたんだよね。 せつなはこっちの事分からないから。知らない事は助けてあげなくっちゃっ、て。 でもさ、お互い様だったんだね。 あたしもたくさんせつなに助けて貰ってた。 せつなとなら、勉強だってしんどくなかった。 すぐに休憩したがったり、集中力が無いってせつなに叱られたりもしたけど。 せつなといた頃は一回も宿題忘れもテストで赤点取る事も無かったんだよ。 体育だって楽しかったなぁ。せつなが上手くパス回してくれたり、 あたしが動きやすいようにミスをフォローしてくれてたんだよね。 あーあ、由美や大輔ともクラス別れちゃってさ。 学校ってあんなにつまんなかったっけ?なんて思っちゃうんだよ。 このあたしがだよ?せつなに学校ってすっごい楽しいって言ってたのに。 放課後はやっぱり美希たんやブッキーと集まっちゃう。 相変わらず楽しいんだ。三人でのお喋り。時間を忘れちゃうって言うかね。 でも、ね。ふと、会話が途切れる時があるの。 おかしいよね。普通に話せばいいのに。 「せつな、今頃どうしてるのかなぁ。」 「せつな、頑張ってるんだろうなあ。」って。 何でだろうね。どうして、話せないんだろう。 不思議だよ。ちょっと前までは三人が当たり前だったのに。 どうしてこんなに「欠けちゃった」って感じるんだろう。 どうしてこんなに、足りないって思っちゃうんだろうね。 この間ね、とうとうみんなで泣いちゃった。 三人でいつもみたいに公園でお喋りしてたの。 ブッキーが飲み物買ってきてくれたんだけどね。 ブッキーってば、ペットボトル四本持ってるの。 帰って来るまで全然気付いてなかったみたいでさ。 気付いた後、もう…ね。 ボロボロボロボローーって感じで涙が。「せつなちゃぁ~ん……」って。 美希たんがそれ見て怒りだしちゃったんだ。 泣かないでよ!って。 あたしが、ラブが泣かずに我慢してるに、ブッキーが泣いてどうすんのっ!って。 ブッキー、えぐえぐ言いながら泣き止もうとするんだけど、うまく行かなくて。 そんなブッキー見てたらあたしも、うっっ…!ってなっちゃってさ。 「美希たん、ブッキー怒んないで。ブッキーは悪くないじゃん!」って 我慢できなくて、あたしまでボロボロきちゃってね。 そしたら美希たんも、「何よ二人とも!アタシは平気だとでも思ってんのっ!!」 そっからはもう、ぐっちゃぐちゃ。 ワンワン泣いちゃってさあ。公園でだよ?人もいっぱいいるのに。 みんな見てんの。そりゃそうだよね。 中学生の女の子が三人も、ちっちゃい子供みたいに泣きじゃくってるんだから。 しばらくしてやっと泣き止めた頃にね、カオルちゃんが ドーナツ持ってきてくれたの。 「お嬢ちゃん達、これでも食べて元気出しなよ。」って。 春限定のいちごみるく味。すごく美味しいんだよ。優しい味でさ。 せつな、食べた事なかったよね。仲間になったのは夏だったし。 それ考えたらまたジワァ~と来そうになってさ。 でも他の二人みたら、二人ともあたしとおんなじ顔してんの。 おんなじ事考えてるの丸分かり。 結局また三人とも口もぐもぐさせながら、べしょべしょになってんの。 カオルちゃんも困ったろうな。 元気付けるはずが、やっと泣き止んだのにまた泣いてるんだから。 そこからせつなの愚痴大会になっちゃった。 だってさあ、めちゃくちゃショックだったんだよ? 電話もメールも通じないんだもん。 滅多に会えなくなるのは分かってたけどさ、電話やメールは 普通に出来るって思ってたんだから! 電話は何度掛けても『お掛けになった電話番号は……』のアナウンス。 メールを送れば『送信元が見付かりません』。 マジで血の気が引いたよ?嘘でしょ?って。ショック過ぎて涙も引っ込んだよ。 呆然としちゃったんだから。 もう、美希たんもブッキーもぶうぶう言ってたんだからね。 「せつなってば冷たすぎ!」ってさ。 ………嘘。嘘だよ。本気じゃないよ。せつなだって分かってくれるよね。 さみしいよ。 会いたくて、会いたくて堪らないの。 声だけでも聞きたいの。 それが無理なら、メールでもいい。 そんなに長くなくっていいんだ。 『元気にやってるよ』って、一行だけでもいいから…… せつな、せつな、せつなせつな、せつな……… なるべく泣かないようにって、思ってるけど…。 時々、我慢できなくなっちゃう。 このままじゃ、元気印の明るいラブちゃんって言われなくなっちゃいそう。 こんなあたし、せつなだって嫌だよね。 いつも思ってるんだよ?笑っていようって。 せつな、あたしの笑顔が好きって言ってくれてたから。 もう深夜1時をとっくに過ぎてる。この分じゃ明日も遅刻かな。 いつもリンクルンを握り締めて眠る。 いつ、せつなから連絡があってもいいように。 いつも朝起きてガッカリするんだけどね。 着信履歴に何も残ってないのは分かってるから。 (………え……?) 手の中で震えるリンクルン。伝わる振動。 おそるおそる、画面を見て……… 『せつな』の文字。 早く、早く出なきゃ。切れちゃうよ! でもホントに?ホントにせつななの? あたし、気付かない内に寝ちゃってて…夢、とかじゃないよね。 ああ、どうしよ。指が上手く動かない。 通話ボタン、なんでこんなにちっちゃいのよ……! 「………ーっもし、もし…?」 『もしもし、ラブ?!よかった!やっと繋がった!』 せつなの、声。少し低い、柔らかくて甘いアルトの声。 あたしの、世界で一番好きな声。 間違いない……!せつな…! 『ごめんね。ずっと連絡出来なくて。私もびっくりしたの。 ラビリンスに戻った途端、通じなくなっちゃったもんだから……』 (…せつな……せつな……せつな……) 『メビウスが壊れちゃったせいでね、色々と電気系統とか通信手段に 不具合が出てきちゃったみたいで……』 (せつな、せつな、せつな、せつな…) 『やっぱり、まず最初は国民のライフラインを確保しなきゃいけないから。 私的な通信手段なんかは一番後回しになっちゃって……』 「……ーーーーッッ!!」 『…って、こんな事くどくど言っても仕方ないわね。……ラブ?』 「……………せつな……」 『……あ…、もしかして、って、もしかしなくても…寝てた…わよね? やだ…、私ったら、ごめんなさい。つい…嬉しくて…時間も考えずに。』 「…………」 『あの……、また、掛け直した方が……いい?』 「…せつ、な……」 『ラブ……?』 せつなの声。ちゃんと、生身の体温を伝えてくる、確かな手触りを持った声。 せつながいる。あたしと、話してる。 せつな、ちゃんといたよ! 「ーーーっ、せつなっ!…えっ…えぅ!…うぅっ…ふっえ…えっ…く…」 『ーっ!やだ、ラブ!』 「せつっ…な、せつなだぁ…!ホントにっ、せつなだよ……ふぇぇ…」 『…もうっ!…ラブぅ、泣かないで…。私だって、我慢……』 「せつなっ…、せつなぁ……」 『…我慢してるんだからっ!もう、話せなくなっちゃう…』 お互いが、泣き止めるまで少し掛かった。 でも、受話器越しの気配が温かくて。 顔が見られないのが切なくて…。 涙は止まったのに、中々言葉が出てこない。 「……せつなは、精一杯頑張ってるんだろうね。」 『うーん、どうかな…?』 「?」 『もう少し、頑張りたいんだけどね。中々頑張らせて貰えなくて。』 「…なんで?」 『あの二人がね……』 ふふっ…とせつなが笑う。 信用、ないみたいなのよ。私はスイッチが入ると後先考えず暴走するって 思われてるみたいでね。 自分達は不眠不休で現場に泊まり込んだりしてる癖に。 私は絶対に連れて行ってくれないの。 自分達は男で大人だからって。 私だって幹部の一人だったのに。今じゃすっかり子供扱いよ。 その癖、自分達の嫌いな事務処理や面倒な手続きは押し付けけてくるの。 まったく都合がいいんだから。 多分、あの変なカードでズタボロになってた時の事があるからだろう。 せつな、言う事なんて聞かなかったんだろうな。 それでも、ぶつぶつ文句を言ってるせつなの口調には、 温かな親しみが溢れている。 あの二人、そう昔の同僚で今は仲間の事を話すせつな。 せつなは、ラビリンスでも自分の居場所を作ったんだ。 昔の仲間と新しい絆を結び、信頼仕合いながら頑張ってるんだ。 よかった。せつな、生き生きしてる。 すごく、大変なんだろうな。 でも、その声には遣り甲斐と手応えを感じているだろう、 確かな誇らしさが滲み出ている。 よかったね。あたしも嬉しい。せつな、忙しいけど充実してるんだよね。 …………………。 さみしくて、堪らないのはあたしだけ……? せつな、もう……こっちには……… 『……ラブ。』 「………ん?」 『……会いたい…。』 「!!!」 『ラブの作ったハンバーグ、食べたい…』 「せつな……」 『お母さんのコロッケと、お父さんの肉じゃがも……』 「……せつな」 『おうちに……、みんなの…ラブの所へ、帰りたい…。』 せつな。ああ、ゴメン…せつな。 あたし、自分の事ばっかり。自分がさみしくて拗ねてるからって…。 頑張ってるせつなは、あたしがいなくても平気なんだ…なんて。 そうだよ。せつなの方がさみしくて、不安で、心細いに決まってるじゃん。 あたしにはお父さんもお母さんも、美希たんもブッキーも側にいるのに…。 『ラブぅ。私、精一杯頑張るから。頑張って、ラビリンスを一日でも早く 建て直して…』 「……うん。うん、せつな…」 『それで、それで…胸を張って帰るから。ラブの所に。』 「うん。あたし、待ってるよ!あたしも頑張る。せつながいなくても、 精一杯幸せゲットするんだ。せつなに胸張って報告出来るように!」 『……うん、ラブ。うん。』 『せつなもね、ラビリンスでも幸せゲットだよ!』 それから、あたし達は延々とお喋りしてた。 取り止めのない、他愛ないお喋り。 みんなの近況や、学校での事。 でも、さみしくてずっとやる気のない生活してたって事は言えなかった。 頑張ってるせつなに対して、あんまりにも恥ずかしくって。 気が付けば、窓の外が明るくなって来てた。 さすがに、もう切らないと。 「……夜が、明けてきちゃったね。」 『うん、こっちも。』 「……そろそろ…」 『……そうね……』 「……………」 『……………』 『そうだ、ラブ。あのね、すぐには無理だけど、もう少ししたら 一度そっちに行けると思うの。』 「…!!ホントに!」 『うん、さすがに明日とか今週末…とはいかないけどね。 何週間も先じゃないと思う。帰れるって言っても、 精々半日がいいとこだろうけど……。』 『ホントに、ホント?嘘じゃないよね?やっぱり無理…とか、 そんな事にならない?あたし、そんな事になったら爆死だよ!!』 『私だってそうよ。ホントは、突然帰って驚かせようかと思ったんだけど…』 「そんな事されたら、それこそショック死!せっかく会えるのに あたしを殺したいの?!せつなはっ!!」 『もう…、落ち着いてよ。』 落ち着いてなんかいられますか! もうっ、何でこんな大事な情報を最後の最後に出すかな。せつなってば! ああっ、なんかクスクス笑ってるし! 『また、連絡するから…。』 「絶対だよ!あっ、メールとかこっちからも送れる?」 『多分ね。』 「オッケー!後で送るから!」 『私も。それに、美希やブッキーにもこれから送って見る。』 うんうん、美希たんもブッキーも超ーっ喜ぶ! 多分、いや絶対泣くね。賭けてもいい。 『……ホントに、そろそろ切らなきゃ…』 「…そだね…」 そうだよね。また、電話出来るようになったんだから。 せつなだって今日も忙しいよね。少しは眠らなきゃだし。 『……ラブ……』 「…んー?なあに?」 『………大好き…』 「……ーっ!……もぉう、…切れなくなっちゃうよ…」 『…ごめんなさい。まだ…言ってなかったなぁ…って。』 「あたしだって…、あたしも大好きなんだから!すごくすごく、大好きだよ!」 『………………』 「………………」 『本当に、切れなくなっちゃうわね…。どうしよ?』 「……じゃあ。せーの、で、一緒に切ろうか?」 『分かったわ。せーの、ね?』 「ホントに同時にだよ?あたしが切るの、確認してから…とかダメだからね。」 『……。』 やっぱり。そんな事だと思ったよ。 ラブさんの目(この場合、耳?)は誤魔化されませんよ。 「じゃあ、行くよ?……せー…の……」 プツン…と言う儚い感触。同時に離れた、温もりと…。 途端に、現実感が薄れて不安になってリンクルンを見る。 表示されてる通話時間。着信履歴に残る、『せつな』の名前。 (……夢、じゃない。) リンクルンをぎゅっと胸に抱き締める。 せつなとの絆を、確かめるように。 すると、もう一度、震える。 件名『届いてる?』 送信者はやっぱり、『せつな』 『ちゃんと送れたかしら?もう朝だけど、少しでも寝なきゃ駄目よ。 でないとラブは絶対に授業で居眠りするにきまってるんだから! 私も一休みしてから、仕事に行くから。今日も精一杯頑張るわ!』 ぷっ、と思わず吹き出す。 (まあったく。最初のメールがお小言って。ムードないんから。) でも、せつならしい。 うん、そうだよ。せつなはこうでなくっちゃね! あたし達はなんにも変わらないんだから。 あたしはパンッ!と音を立てて自分のほっぺを挟む。 (さあて!気合い、入れなきゃ!) せつなには寝ろって言われたけど、このままランニングしてこよう。 ずっと、ダンスも体力作りもおさぼりしてたもんね。 ひとっ走りして、汗かいたらシャワー浴びて。 それから、お父さんとお母さんにとびっきり豪華な朝ごはん作ってあげよう。 ラブのスペシャルオムレツは外せないね。 せつなも大好きだったやつ。 あれが朝ごはんに付くと、せつなニッコニコだったな。 うーん…、と伸びをする。 だらだらなんてしてられないね。 今度はちゃんと報告するんだもん。 あたしも頑張ってるよ!って。 せつなみたいに、すごい仕事してる訳じゃないけど、 精一杯自分に出来る事をやってくんだ。 せつなに、恥ずかしくないように。 せつなに、ラブの笑顔が大好きって言って貰いたいから。 (せつな、行ってきます!) あたしは、早朝の澄んだ空気の中に飛び出して行った。 ラせ1-37へ
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/255.html
「あなたのために 後編」/黒ブキ◆lg0Ts41PPY R18 抱き合い、体温を感じ、お互いの鼓動だけに耳をすます。 周囲のざわめきも、外から聞こえる賑やかなクリスマスソングも、どこか遠くの世界の事のようだ。 しかし、そんな幻想に浸っていられるような時間は無い。 今回の帰省はびっしりスケジュールが埋まっている。 イブの夕方までパーティー、片付けが終わったら家族で軽い夕飯。 そのまま夜はリビングに布団を並べて両親とラブとせつなの四人で眠る。 明日は美希や祈里とお出掛け。 二人が色々と計画を練ってくれているらしい。 甘い夢の世界に逃げ込みたくなる気持ちを断ち切るように、ラブは 大きく息を吐き、せつなの肩に手を置き、体を離していく。 「パーティーが終わったら、家族の時間だね」 「夜、みんなで寝るなんて初めてね」 「うん。お父さんもお母さんも楽しみみたい」 「明日は美希とブッキーが遊びに連れて行ってくれるのよね」 「そうだよ。どこに行くかはあたしにも内緒なんだって」 「……また、今度帰ってくるわね…」 ラブだけに会いに。 切ない声。 せつなにとって、家族や親友と過ごす時間は特別なもの。 いつも両親や幼馴染みが側にいるラブとは、その重みが違う。 離れて暮らしているせつなには自由な時間は宝物のようにかけがえの無いもの。 すべてを同時には手に入れられない。 それでも、その大切な時間と同じくらいか、それ以上にラブとの時間を 求めてくれてもいる。 「分かってるよ、せつな…」 「ラブ……」 「あたしね、せつなにみんなと楽しく過ごして欲しかった。これは本当に本当だから」 「……ええ」 「二人きりになれないがちょっぴり残念なのも本当だけど…」 「…うん」 「でもね、いいんだ。分かってるから。せつなは、ちゃんとあたしといつも一緒なんだよね」 いつもいつも、ずっと想ってくれてるのを知ってるから。 戻ろうか。 そう、ラブはせつなの手を取ってリビングに戻る。 これくらいの痩せ我慢は出来るようになった。 永遠にこれが続く訳じゃない。 せつなはいずれ帰ってくる。ずっと側にいてくれるようになる。 その約束を信じてるから。 (あーあ。カッコ悪いな、あたしってば) 気遣わしげなせつなの様子を見て、ため息が漏れる。 心一つ隠せずに、せつなに余計な気を使わせてしまったのが情けない。 でも、そんなラブの気持ちに気付いてくれるのがやっぱり嬉しい。 みんなの輪に戻り、囲まれ構われているせつな。 もっともっと、時間があればいいのに。 夜になり、賑やかさの余韻がほのかに残るリビングで眠りに就く。 布団の中での囁き声でのお喋り。 その声が一つ落ち、二つ落ち、残る二人の間にも静寂が落ちる。 そっと一つの毛布にくるまり、身を寄せる。 触れそうで触れない唇。 固く握り合ったままの手。 「…おやすみなさい」 愛しい気配をすぐそこに感じられる幸せ。 それ以上には進めないもどかしさ。 大丈夫。今感じてる焦れったさも切なさも、いずれ大切な思い出に変わるはずだから。 眠るのがなんだか勿体ない。 暗闇の中で見つめ合いながら、言葉に出来ない想いを伝え合う。 「…ラブ、眠れないの?」 「ううん、明日もあるし…」 「そうね、早く寝ないと…」 「目、瞑らないと眠れないよ…?」 「うん…でも、ラブより先に寝たくない…」 「それじゃあ、いつまで経っても眠れないじゃん…」 じゃあ、こうしよう。 ラブはせつなをくるりと寝返りを打たせ、後ろから抱きかかえるようにくるみ込む。 「…あったかい……」 「これなら、いいよね…?」 「……うん…」 息遣いを合わせ、瞳を閉じる。 まるで一つの生き物の様にぬくもりも鼓動も一つになる。 一緒にいられる僅かな時間を、少しでも近くで感じられるように。夢の中でも、一つでいられるように。 ……… ……………………… 「さて、と。もうそろそろ計画教えてくれてもいいんじゃないのかなぁ?」 「そうよ、どこに連れて行ってくれるの?」 翌日、クローバーの四人は美希の家の前で集合。 二日目のイベントは美希と祈里の担当だった。 ラブにも一切秘密の周到さ。 仲間はずれにされた若干の恨みがましさも込めて、ラブは腰に手を当てて仁王立ちだ。 それでもまだ美希も祈里もニコニコと顔を見合わせたままで、意味ありげな目配せをよこす。 「さあて、どこかしらね?当ててみる?」 「うふふ、たぶん分からないよ。でもね、絶対に喜んでもらえると思うの」 自信満々な二人の態度に少し呆れた顔でラブは首を振る。 「ま、そこまで言うなら期待しちゃうよ?でもさー、今日はイベント関係はどこもいっぱいじゃない?」 「ふふん、抜かりは無いわよ。完璧なアタシ達がそんなヘマすると思う?」 「そうよ。ラブちゃんじゃないんだから」 「ブッキーって時々凄く優しく凄く言いにくい事言うわね…」 「じゃ、とにかく行きましょうか。ブッキー、準備はいい?!」 「はあい!」 取り出したのは何故か目隠し。 戸惑い慌てるラブとせつなにお構い無しに二人は目隠しを装着させる。 「え?ちょっ、これ、何のプレイ?」 「…何も見えないわ」 「そりゃ、目隠しだもの。見えたら困るじゃない」 「大丈夫。ゆっくり歩いて誘導するから。そんなに遠くないよ」 美希がラブの手を、祈里がせつなの手を引いて歩きだす。 目隠ししたまま徒歩で行ける距離でクリスマスのイベント? そんなの何かあったっけ? ラブは頭の中を疑問符でいっぱいにしながら覚束ない足取りで美希に引っ張られて行く。 せつなは少し戸惑いつつもしっかりとした足取りで大人しく祈里について行く。 そして、ある疑問に突き当たり、遠慮がちに祈里に質問しようとした。 「ねえ、ブッキー。この道順って……」 「しーっ!せつなちゃん、気が付いても黙っててね」 「え、なになに?!せつな、なんか気付いたの?…おわっっ!」 「こら、ラブ!見えないんだから急に動かないの。転ぶわよ!」 「もう少しだから、頑張って、ラブちゃん!」 はい、到着! そう言って目隠しを外された場所を見て、ラブはぽかんと口を開ける。 どうやら途中で道順と方角から目的地の見当がついたらしいせつなも、 二人が何のためにこんな事をするのか理解出来ない様子だ。 「……あの、これ…」 「美希?ブッキー?」 そこはほんの少し前に両親に挨拶してきたばかりの、桃園家の玄関前だった。 美希と祈里は再び顔を見合わせて悪戯っ子の笑みを浮かべる。 「おじさんとおばさん、もうデートに出掛けてるはずだから」 「アタシとブッキーもこれからデートだから。あなた達も二人でゆっくりすれば?」 その言葉の意味が脳に届くまで、しばらく時間が掛かった。 「あのね、美希ちゃんと二人でいっぱいいっぱい考えたんだよ? せつなちゃんが一番喜ぶプレゼントって何かなぁって」 「そして行き着いた結論は!ズバリ、ラブとのラブラブタイム!」 「みんなでワイワイも楽しいけど、やっぱり二人っきりになりたいでしょ?」 「そーそー、なんたってクリスマスなんだし」 祈里はまだ固まってるせつなの頭を撫で、美希はラブの頬っぺたをむにっとつねる。 「みひたん、いひゃい…」 「まったくねえ、見てられなかったわよ?」 「ホントホント。あんなにしょっちゅうチラチラ熱っぽい視線絡まされたらねぇ」 「変なとこで妙に義理堅いって言うか、遠慮深いと言うか…」 「せめてわたし達には正直に言えばいいんだよ?二人の時間も欲しいんだって」 ようやく金縛りが解けてきたものの、ラブとせつなは言葉すら出ない。 口を開けば泣いてしまいそうだった。 二人は呆れたような、でも温かさの溢れた瞳で美希と祈里はラブにせつなの手を握らせる。 じゃ、改めて。 「メリークリスマス!!!」 いつの間にやら手にしていたクラッカーが鳴り響く。 突然の破裂音にギョッとして振り向く道行く人々にもお構い無しだ。 「じゃ、わたし達も行くからね」 「こっちはこっちでデート楽しむんだから邪魔しないでよね」 手を振り、立ち去る二人にラブはやっとの事で声を絞る。 「ありがとう!」 「美希!ブッキー!」 首だけで振り向き、ニッコリと天使のような微笑みをくれる祈里。 背を向けたまま、芝居がかった仕草で高く手をあげて応える美希。 ラブはドアに飛び込み、鍵を閉めるのももどかしく、そのまま玄関でせつなを抱き締めた。 唇を重ね、吐息の合間に名前を呼び合う。 何度も何度も重ねているうちに、涙の味が混じり合う。 「痛っ」 「せつなっ?!」 力任せに抱き締め合ってている内にバランスを崩したラブにのし掛かられ、 せつなが床に倒れ込んだ。 鈍い音が響き、受け身を取る余裕もなく、後頭部をぶつけてしまった。 「ふふふふ…」 「クスクスクス…」 何だか可笑しくなって、冷たい床に倒れたまま、ひとしきり笑ってしまった。 「……お見通しだったみたいね」 「せつなは大丈夫だよ。バレバレだったのはあたしの方だよ」 「私、つまらなそうに見えた…?」 「違うよ!そんな事ゼッタイ無いよ!ただね…」 「ただ…?」 「美希たんとブッキーには分かっちゃったんだよ…」 「……………」 「付き合い長いしねぇ……」 「幼馴染みってすごいわね」 まっすぐに見つめ合う。 周りの様子を伺いながら交わす密やかな目配せではない。 誰の目も気にする必要もなく、その瞳に愛しさを溢れさせて。 ラブはもう一度、そっと、優しく長いキスを贈る。 せつなにありったけの愛を込めて。 そして、ここにいない、二人の優しいサンタクロースに感謝を込めて。 「大好き…」 「私も…」 「大好き、大好き、大好き、大好き…」 今度はせつなから、ラブの言葉を奪うように唇を重ねてゆく。 やっと、思いきりお互いを求め合える。 ようやく始まる、二人のクリスマス。 もう、言葉は必要無かった。 ラせ2-24へ(R18。閲覧注意)
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/188.html
四つ葉になるとき ~第1章:届け!愛のメロディ~ Episode3:わたしたちの小さな天使 「祈里おねえちゃ~ん!」 小さな影が大きな影を従えて・・・いや、 大きな影と小さな影とが寄り添うように こちらに向かって走ってくる。 弾んだ声と、千切れんばかりに振られるしっぽ。 表現の仕方は違うけど、二人とも喜んでる。 「タケシ君、ラッキー。こんにちは。昨日は大活躍だったわね。」 わたしの言葉に、満面の笑みと、元気な鳴き声が返ってきた。 「うん!おねえちゃんたちのお陰だよ。ありがとう。」 昨日は、ワンちゃんたちの運動会だった。 パッション・キャッチを成功させて、三等賞をもらった張本人が くぅ~ん、と嬉しそうに擦り寄ってくる。 首筋をなでるわたしを見つめる、つぶらな瞳。 この瞳で、かつては彼女を縛っていた闇を見つめ、 今度は彼女の中に芽生えた光を見つけた。 視線を合わせ、その泉のような瞳の奥を、静かに覗き込む。 今は、キルンの助けはいらない。 言葉は無くても、想いは伝わるから。 (ありがとう、ラッキー。せつなさんを受け入れてくれて。 わたしたちの、力になってくれて。) わん、という短い返事は、 強く、やさしく、わたしの心の中に響いた。 四つ葉になるとき ~第1章:届け!愛のメロディ~ Episode3:わたしたちの小さな天使 「ハイ、シフォン。たぁんと召し上がれ。」 ラブちゃんが、膝の上に抱っこしたシフォンちゃんに、キュアビタンを手渡す。キュア~!と嬉しそうな声を上げて、彼女はその丸っこい両手で、哺乳瓶を抱えた。 ピルンが出す料理の種類は、どんどん増えているけれど、やっぱり最後はキュアビタンが飲みたいみたい。そう言えば、美希ちゃんが前に、“シメ”って言ってたっけ。うーん、ちょっと違うような気もするんだけど。 わたしたちは、今日もラブちゃんの家に来ている。いつもはラブちゃんの部屋にお邪魔するけれど、今日集まっているのは、せつなさんの部屋。家具も入り、小物も揃ってバッチリ部屋らしくなったから、一度みんなを招待しようよ!と、ラブちゃんがせつなさんに提案したらしい。 せつなさんが冷たい麦茶とお菓子を持ってきてくれて、みんないつものように、思い思いの場所に座った。その途端に、お腹を空かせたシフォンちゃんが泣き出して、ピルンの出番となったのだった。 「やっぱりせつなの部屋は、赤を基調にしたわけね。なかなかセンス、いいじゃない。」 「・・・ほんと?」 部屋を見回してそう言う美希ちゃんに、せつなさんが少しはにかみながら、嬉しそうに微笑む。 「良かったね、せつな。小物はほとんど、せつなが選んだんだよ。この円形のラグとか、すっごく気に入ってるんだよねっ。」 「もう、ラブ!・・・恥ずかしいわよ。」 本人以上に嬉しそうなラブちゃんの言葉に、せつなさんが顔を赤らめたとき、ピンポーン、と玄関のチャイムが鳴った。続いて、新聞の集金でーす、という声。 「はーい。・・・お母さんパートで留守だから、ちょっと行ってくるね。せつな、シフォンをお願い。」 「え?あ・・・。」 ベッドに腰掛けているせつなさんに、シフォンちゃんをぽんと手渡して、急いで部屋を出て行くラブちゃん。何気なくそれを見送ったわたしは、せつなさんがシフォンちゃんを抱っこしたまま、固まってしまっているのに気付いた。 シフォンちゃんを支えている両腕だけでなく、首や肩にまで、凄く力が入っているように見える。もっとも、当のシフォンちゃんはと言えば、そんなせつなさんの様子にはお構いなし。ただ一心に、大好きなキュアビタンを飲んでいるみたいだけど。 その様子を見て、わたしが初めてシフォンちゃんを抱っこしたときのことを思い出した。そう言えばわたしもあのとき、凄く緊張したんだったっけ。支える指がどこまでも埋もれてしまいそうな柔らかさは、どんな動物さんの抱き心地とも、まるで違っていたから。 わたしが座布団から立ち上がると、同じように勉強机の椅子から腰を浮かせていた美希ちゃんが、それを見て、また元通りに座り直した。ここはブッキーに任せた。美希ちゃんの目が、そう言っている。こういうとき、美希ちゃんはホントに、わたしたちのおねえさんだ。 わたしは美希ちゃんに小さく頷いてから、意を決して、せつなさんの隣りに腰を下ろした。 「あのっ、せつなさん。」 自分の声が裏返っているのに気付いて、心臓がドキリと跳ねる。 ダメだ、わたしまで硬くなってどうするの。頭をひとつ振って、大きく深呼吸してから、わたしは思い切って、せつなさんの肩にそっと手を置いた。 「・・・祈里?」 深い赤を帯びた瞳が、驚いたように私を見る。せつなさんの強張っていた肩から、少し力が抜けたみたい。それが掌から伝わって、わたしもようやく落ち着いてきた。 「あのね。そんなに硬くならなくても、大丈夫だよ。もっと力を抜いて、楽に抱っこしてあげて。」 大丈夫、今度は言えた。ホッとして頬が緩んだわたしに、せつなさんもつられたように笑みを浮かべる。 両腕で輪を作って、その中にシフォンちゃんを入れるようにすると良いこと。寝ているときは、頭とお尻を腕で軽く支えてあげれば、それだけで安定すること。わたしのジェスチャーを交えた説明に、せつなさんは素直に頷いて、言われたとおりに体勢を変える。そしてやっと緊張から開放されたのか、ふぅっと大きな息を吐いた。 「ごめんなさ・・・あ、ありがとう。私、シフォンを抱っこするの、初めてで・・・。あんまり軽くて柔らかいから、何だか・・・壊してしまいそうで・・・。」 小さな声で、ポツポツとしゃべる彼女に、わたしは笑顔で頷いてみせる。 「わたしも、最初は恐かったよ。ふわふわしてて、頼りなくて、心配になっちゃうんだよね。」 「大丈夫よ。シフォンはもう大きくなってきたし、そんじょそこらの赤ちゃんとは違うもの。いざとなれば宙にも浮いちゃうんだから、少々落っことしてもへーき。」 美希ちゃんが、ワザと乱暴なことを言って、せつなさんにウインクしてみせる。そんなこと言って、またシフォンちゃんにヘソを曲げられても、知らないんだから。 話しているうちに、シフォンちゃんがキュアビタンを飲み終えたらしい。せつなさんの腕の中で、気持ちよさそうに目を閉じている彼女の額のマークが、ぼうっと淡いピンクに色づいている。お腹がいっぱいで幸せ、というシフォンちゃんのサイン。 せつなさんが、ゆっくりゆっくり、そろーっとベッドに寝かせると、シフォンちゃんは、小さくプリプー・・・と呟いてから、すやすやと寝息を立て始めた。 「・・・寝た?」 美希ちゃんが小声でそう尋ねながら、席を立つ。わたしの隣りにやってきて、一緒に寝ているシフォンちゃんを覗き込んだ。 「ふふっ、かわいい寝顔。」 「ホント、まさに天使ね。」 ささやくわたしと美希ちゃんの隣りで、今まで微動だにしなかった黒髪が、こくんと揺れる。 「本当に、かわいい・・・。」 小さな小さなその声の、あまりにも愛しげな響きに、わたしは思わず、せつなさんの顔に目をやった。 シフォンちゃんを見つめるその瞳は、まるで彼女を包み込むようで・・・。見ているこっちまでやさしい気持ちになれるような、そんな眼差しだった。 かつての彼女の、知的だけれど、まるで表情の無かった暗い瞳を思い出す。あの頃は、占い師さんはやっぱりミステリアスなんだなって、単純に思ってた。 でも今の彼女を見ていると、あの頃の彼女に足りなかったもの・・・ううん、本人は足りないってことさえ知らなかったものが、よくわかるような気がする。 (良かったね、せつなさん。) 心の中で、そうつぶやいたとき。 「ごめ~ん、遅くなっちゃって。小銭入れの中身、玄関でぶちまけちゃってさぁ。新聞屋さんに拾ってもらっちゃった。あはは~。」 バタンというドアの音と一緒に入ってきた、ラブちゃんの明るくて大きな声。 「しぃーっ!」 三人揃って人差し指を口の前に立てて、ラブちゃんを睨む。 「おっ、なんや、あんさんら。息ぴったりやなぁ。」 今まで一人で黙々とおやつのクッキーを食べていたタルトちゃんが、そんなわたしたちを見て、ニッと笑った。 「こうして寝顔を見ている分には、ほんっとにかわいくて、平和なんだけどね~。」 そろりとドアを閉めて、わたしたちと一緒にベッドを覗き込んだラブちゃんの言葉に、せつなさんが首を傾げる。 「どして?起きているときも、シフォンはかわいいわ。それに、平和って・・・。」 「ああ、そりゃあ、かわいいのは間違いないよ。でも、起きてるときは、なかなか泣きやまなかったり、言うこと聞かなかったりするしさあ。」 「でもそれは、わたしたちだって、赤ちゃんの頃はそうだったと思うよ。」 わたしがそう言うと、ナハハ~、といつもの笑い声を上げて、ラブちゃんはさらに続ける。 「それにほら、シフォンのいたずらは、時々手がつけられなくなっちゃうじゃない?」 「でも・・・単なるいたずらでしょう?ドーナツが宙に浮いてるところくらいは、見たことあるけど。」 「そんな甘いもんじゃないって!」 「そーんな甘いもんやないでぇ!」 せつなさんの言葉に、今度は、ラブちゃん、美希ちゃん、そしてタルトちゃんの声が揃った。自分の声の大きさに、慌てて口を押さえているところまで、息ぴったり。 わたしは思わずクスッと笑ってから、こっちに行きましょう、と促して、みんなで窓の近くに場所を移した。 ラブちゃんが、改めてせつなさんに向き直る。 「せつなはまだヒドい目に遭ったことないから、そんなことが言えるんだよぉ。座布団が凄い勢いで飛び回ったり、消しゴムが背中でもぞもぞ動いたり、も~大変なんだから!」 ラブちゃんが言うと、そんな内容でも、何だかシフォンちゃんの自慢話みたいに聞こえるから不思議だ。 「わいなんか、何べんも空中遊泳させられとるで。」 「アタシも、車が宙に浮きかけて驚いたことがあるわ。」 「それだけじゃないよね~、美希たんは。ティッシュでヒゲを・・・」 「ラブ!!」 怖い顔でラブちゃんを止めた美希ちゃんが、コホンと咳払いをして、せつなさんの方を向いた。 「まあ、シフォンに悪気があるわけじゃなくて、遊んでるつもりでいることが多いんだけどね。でもとにかく、超能力が相手だから・・・。」 「ふぅん。」 せつなさんは、真面目な顔で考え込んだ。 「せつな、どうかした?」 ラブちゃんが、少し心配そうに、せつなさんの顔を覗き込む。その声を聞いて、せつなさんはすぐに笑顔になって、かぶりを振った。 「あ、ううん。スイーツ王国のことは知っているけど、そこの妖精がそんな力を使えるなんて、聞いたことなかったから。スイーツ王国では、よくあることなの?」 せつなさんの問いかけに、今度はタルトちゃんが、凄い勢いでかぶりを振る。 「そんなことあらへん!スイーツ王国の中でもそんなことが出来るんは、わいが知る限り、シフォンと長老だけや。」 「へぇ~、そうなんだ。凄いんだね、シフォンは。」 素直に感心するラブちゃんの顔を、微笑みながらちらりと見やって、せつなさんは穏やかな声で言った。 「でも、シフォン自身はきっと、自分の力が超能力だなんて・・・特別な力だなんて、まだ思っていないのよね。」 「あ・・・。」 今度は、ラブちゃんと美希ちゃんとわたしの声が揃う番だった。 シフォンちゃんの超能力を、シフォンちゃん自身がどう感じているか。そんなこと、今まで考えたことなんてなかった。きっとシフォンちゃんにとっては、生まれながらに持っている、当り前の力。キュアビタンを飲んだり、泣いたり、おしゃべりしたりするのと、同じことなんだろう。 でも、それが超能力だと知ったら・・・周りの誰も持っていない、自分だけの特別な力だと知ったら、そのとき、シフォンちゃんはどう思うんだろう。 「大丈夫だよ!」 急に静かになった部屋に、ふいに力強い声が聞こえて、わたしたちは揃って顔を上げた。 やっぱりこういうときに口火を切るのは、ラブちゃんだった。目をキラキラさせながら、その強い眼差しで、わたしたちを見つめる。 「シフォンには、あたしたちがついてるもの。シフォンが、みんなの笑顔が大好きで、かわいくて、とーってもやさしい子だってこと、あたしたちはよく知ってる。 だから、いつかもしも、シフォンが自分の力のことで、悩んだり落ち込んだりすることがあったら、あたしたちみんなで、それを伝えてあげようよ。」 「あらぁ?誰かさんはさっき、起きてるときは大変だ、なぁんて言ってた気がするけど?」 からかうような口調でそう言ってから、美希ちゃんがやさしい光を宿した目で、ラブちゃんを見る。 「でも、ラブの言うとおりね。そのときは、アタシたちがシフォンを励ましてあげよう、完璧に。」 むくれかけていたラブちゃんが、その言葉を聞いて、再び笑顔になる。 ――人間と動物とでは、感じ方が違うんだ。だから理解し合うためには、お互いに一歩ずつ、近付かなくちゃいかん。 ふいに、以前わたしがタルトちゃんと入れ替わってしまったときに、お父さんに言われた言葉を思い出した。 シフォンちゃんは動物さんじゃないけど、人間と妖精さんだって、それはきっと同じのはず。だからわたしも、三人の顔を見ながら、笑顔で美希ちゃんに続いた。 「うん。わたしたちなら、少しでもシフォンちゃんの気持ちに寄り添ってあげられるって、わたし、信じてる。」 「ううっ、あんさんら、ホンマに、ホンマに、ええ子やなぁ。」 涙もろいタルトちゃんが、そう言ってズズッと洟をすする。 せつなさんは、何も言わなかった。でも、わたしたち三人を交互に見つめるその表情は、何だかとても穏やかで、そしてとても嬉しそうに、わたしには見えた。 「そう言えば。」 やっと落ち着いて麦茶を飲み、お菓子を食べ始めたところで、わたしは部屋に入ってから気になっていたことを、せつなさんに訊いてみた。 「せつなさん、本を読むのが好きなのね。図書館でも会ったことあるし。」 間取りも家具もほぼ同じのラブちゃんの部屋との、大きな違い。それは、勉強机の隣りに置かれた本棚だった。既に十冊以上の本が、その中に納まっている。せつなさんがこの家に来てから買ったものだろうから、そう考えるとかなりのペースだ。さらに机の上には、図書館で借りてきたものらしい本も、五、六冊積み上がっていた。 「ええ。この世界のこと、色々と勉強中だから。でも、本の知識だけじゃわからないことだらけなんだって、最近気付いたわ。」 「そうよね。」 まっすぐにこちらを見て話すせつなさんの目を、今度はわたしも、まっすぐに見つめて頷く。そのことは、わたしも時々感じていることだったから。 「祈里も、本が好きなのね?」 せつなさんが小首を傾げるようにして、わたしに問いかける。 「うん。動物さんの本も好きだし、それ以外の本も、割と読む方かな。」 「割と、どころじゃないよぉ。せつな、ブッキーの部屋の本棚って、凄いんだよ。動物の本だけじゃなくて、いろんな本が、すっごくたくさんあるの!美希たんやあたしの部屋とは、大違いなんだから。」 ラブちゃんが両手を広げて、大袈裟にそんなことを言う。 「ちょっと、ラブ!どうしてアタシの部屋まで引き合いに出すのよっ!」 また小競り合いを始めた二人にちょっと微笑んでから、せつなさんは話を元に戻した。 「本の知識って、どのくらい役に立つものなのかしら。本物とは違っていることや、本物を見ないとわからないことも多いわよね。」 「そうね。本に書いてあることが実物そのものかって言われたら、そうじゃないよね。専門書なんて、プロの人にしかわからないような、難しいことが書いてあるんだろうけど、紙の上に全ては表せないし。」 辞書も図鑑も実用書も、知識を得るという点では、きっと同じ。本だけじゃない、インターネットだって、誰かの話を聞くのだって、同じことだ。 「でもね。何かを知りたいと思ったとき、本ってその世界の入り口になってくれるような気がするの。 もちろん、本の知識だけじゃ、実感できないことも多いんだけど、本物に出会ったときに、本で読んでいたことが、それに近付く手がかりになってくれる気がして。」 「世界の、入り口・・・。」 せつなさんが、少し視線を落して、噛みしめるようにつぶやく。 ふいにまた、あのときのお父さんの言葉を思い出した。 入り口から、一歩一歩世界を歩いていくためには、必要なのは知識だけじゃないはずだ。でも、せつなさんならきっと大丈夫。 わたしたちが考えもしなかったシフォンちゃんの気持ちを、あの包み込むような瞳で見つめていた。小さな彼女の未来に、静かに思いを馳せていた。そんなせつなさんなら、この世界の、たくさんの本物の人々と、本物の想いと、少しずつでも、きっとわかり合っていける。 (わたし、信じてる。) 心の中でそうつぶやいたとき、せつなさんがわたしの顔を見て、少しはにかんだように笑った。 「ありがとう。少し、わかったような気がするわ。」 「ねぇ、ブッキー。今度はみんなで、ブッキーの家にお邪魔させてよ。せつなにブッキーの蔵書、見せてあげたら?」 「蔵書だなんて。大袈裟よ、美希ちゃん。」 思わず赤くなったわたしの顔を覗き込んで、ラブちゃんと美希ちゃんが、何だか嬉しそうに、声を揃えて笑った。 ☆ 次の日は、午後から四人で、四つ葉町公園へ出かけた。ミユキさんから久しぶりに、会いたいと連絡があったのだ。きっとダンスレッスンを再開してくれるんだよ!というラブちゃんの言葉に期待を込めて、わたしとラブちゃんと美希ちゃんは、これまた久しぶりに、ダンスの練習着姿だ。 今日は、せつなさんがシフォンちゃんを抱いている。たった一日で、もうすっかり力の抜けた、安定した抱き方になっているんだから、凄いと思う。 暑さのせいか、人通りのほとんどない商店街を進んで、あと少しで公園の入り口というところで、一番後ろを歩いていたせつなさんが、足を止めた。 「せつなー、どうしたの?」 ラブちゃんがすぐに気付いて、声をかける。 「あ、ううん。ごめんなさい。」 せつなさんがそう言って、こちらに駆け寄ろうとした、そのとき。せつなさんの体が、ふわりと宙に浮いた。 「えっ!?な、なに!?」 さすがのせつなさんも、大慌てで目を白黒させてる。その腕の中で、シフォンちゃんが嬉しそうに、キュア~!と叫んだ。 「あ、こら、シフォン!」 「ダメよ、シフォンちゃん。早く下ろしてあげて。」 ラブちゃんとわたしの声には耳も貸さず、シフォンちゃんが両方の耳を上に伸ばして、パフン、パフン、と打ち付ける。その途端、せつなさんが宙をすーっと滑るように動いて、少し後ろにあった店の前で、ストンと地面に足をついた。 さっと自動ドアが開く。そこは、四つ葉町で一番大きな本屋さんだった。 「え?シフォン、ここって・・・。」 あっけにとられるせつなさんの顔を見上げながら、シフォンちゃんは首を傾げて、あどけない声で言った。 「せつな~、ここ、いきたい?」 「シフォン・・・。」 おそらく、せつなさんがチラチラと本屋さんを横目で見ているのに、シフォンちゃんが気付いたのだろう。そして足が止まったのを見て、せつなさんが行きたいところを、確信したのに違いない。 せつなさんの顔が、みるみるうちに真っ赤になる。そして、彼女はまたあの愛しげな眼差しでシフォンちゃんを見つめてから、ギュッとその柔らかな体を抱きしめた。 やがて顔を上げたせつなさんは、わたしたちを見て、少し照れたような表情を見せた。 「ごめんなさい。みんな、先に行ってて。私、ちょっと気になる本があるから、買ったらすぐに追いかけるわ。」 「わかった。ミユキさんとの待ち合わせにはまだ時間があるから、ゆっくりでいいよ。」 ラブちゃんが満面の笑みでそう言うと、再び公園に足を向ける。本屋さんの中に消えていくせつなさんの後ろ姿を見ながら、わたしも急いでその後を追った。 (もしも・・・。) もしも、ミユキさんにダンスレッスンを再開してもらえることになったら、今度はせつなさんも誘ってみよう。そのときは、わたしたちとお揃いの赤いダンス服も、ちゃんと準備しておかなくちゃ。だってあのダンス服は、わたしにとっての、ダンスへの入り口だったんだから。 午後の日射しが照りつける四つ葉町公園の、奥にある石造りのステージ。その久しぶりの場所へ向かうわたしの心は、何だかとても弾んでいた。 ~終~ ~第1章:届け!愛のメロディ~ Episode4:寄せる波、返す波へ続く